魚
魚は二人の間で香ばしい個体として転がっていた。食べ物としても生き物としても認められないような屈辱的な個体として。
男はおもむろに煙草に火をつけながら、待っていた。
女はおしぼりをいじりまわしながら、言葉を探していた。
二人は一言も交わさないまま店を出た。
土砂降りを見て男は折り畳み傘を開いてその中に女を入れ、少しだけ満たされた。
女は言葉を探すのを止め、男に触れるか迷っていた。
魚は思う。
真実はあなたが望んでいるものとは違うかもしれない。
魚の眼には今も、美しい青が焼き付いて消えなかった。