7つの大罪克服ツアーへ潜入中!
みなさん、今日はツアーを通して自分を成長させてくださいね!」
「「「 おぉーー 」」」
しめしめ、どうやら人数確認はしていないらしい。
サービスエリアでバスに潜り込んで正解だった。
客はどいつもこいつも、
今から車でも買うのかというほどの現金を持っている。
なんのツアーだかしらないが、
隙を見て給食費を盗む感覚でかっぱらえば一生安泰だ。
「さぁ、みなさん。つきましたよ!
あそこが1つめの罪"怠惰"の克服する場所です!」
バスを降りると、高級なふかふかベッドが並んでいた。
ツアーの参加者ではないがこれにはツッコミを入れてしまう。
「いや、克服どころか、より味をしめちゃいそうですよ?」
「ちっちっち。良いことを聞いてくれました。
そうです、あそこに用意したのは最高級のお休みベッド!
一度布団に入ったが最後、二度と出たくなくなります!」
「ダメじゃないですか!
怠惰を全然克服してないじゃないですか!」
「逆ですよ、逆。
これからみなさんには最高の"怠惰"を味わってもらいます。
それこそ二度と味わいたくなくなるほどの怠惰をね」
「何言って……」
ツアーの参加者はわかっていたとばかりに布団へと向かう。
俺も布団へ案内されると、手足を拘束され口にはチューブがつながれた。
「呼吸の形式によってジュースやゼリー飲料が出てきます。
みなさんはここでほぼ植物人間状態として
最高品質の"怠惰"を、後悔するほど味わってくださいね」
最初は布団の気持ちよさに感動したものの、
変わらない景色と動けない手足で発狂しそうになった。
楽だし、何も考える心配はない史上最高の"怠惰"。
けれど、行き過ぎた娯楽はもはや拷問に等しい。
装置が解除される頃には全員青い顔をして布団から逃げ出した。
「さあ、みなさん。これで怠惰は克服できましたね。
もう二度と怠惰な生活を送ることはないでしょう」
あの縛り付けられた恐怖は脳裏に刻み付けられていた。
怠惰は克服した。というより、トラウマになった。
このツアーはやばい。
さっさと金を回収して逃げなければ。
「では次は"物欲"の克服です。
みなさん、全財産は持ってきましたか?」
参加者は持ち込んでいた全財産を取り出した。
大金はこのツアーのためだったのか。
「はい、それじゃ全部燃やしてください」
「はぁぁあ!?」
俺が止める間もなく、誰も迷いなく札束を燃やした。
そんな……これじゃ俺は何のためにここにやってきたんだ……。
「みなさん、これで自分の稼いだ思い入れのあるお金はなくなりました。
そして、今から皆さんには使い切れないだけのお金をあげます」
「えっ」
なにこの展開!?
もしかして億万長者になれるパターン!?
「使い切れないほどあげますが、全部使い切ってください。
使い切れなかった人にだけ、あとで請求がされます。
さぁどうぞ」
渡されたのはブラックカード。
実物を見るのははじめてだ。
「さあ、思う存分物欲を満たしてください!」
"物欲"克服ツアーが始まった。
ここにはなんでもそろっている。
服も家電も家も車も……なにもかも。
けれど、使っても使ってもブラックカードの残高は減らない。
ツアーの制限時間は決まっている。
時間内に使い切れなければ、使った分の請求が送られる。
「くそ!! もう全然欲しくない!!」
たいして欲しくないものも買い、絶対に使わないであろう物も買う。
ショッピングが楽しいのは最初だけ。
「すみません、もうほかのお客様が買い占めたんですよ」
他の参加者が必死に金を使うもんだから、
金を使うにも商品の数がどんどん減っていく。
ネットで島を買ったりしながら必死に残高を減らしていく。
「あと5分です!!」
残り100億円。
もう一度島を買うにも相手との取引があるので
すぐにお金が減ることはない。
どうすればいい。
どうすればこの金を使いきれる。
「時間です!!」
俺は慌てて"盲導犬募金箱"にブラックカードを突っ込んだ。
「な、なんとか使い切った……はぁ」
「みなさん、もう一生分の物欲は満たせましたね?
これ以上なにか欲しいという人はいますか?」
恐ろしいショック療法のかいあって、
参加者の全員が"物欲"を克服できた。
もはや、俺もどうしてこのツアーに参加したのか、今ではどうでもいい。
今は金を見ることすら嫌だ。
欲しいものなんて何もない。
今はただ……普通の日常に戻りたい。
「では、次の罪を克服しに行きましょう!!
次は"肉欲"の克服です!!」
ガイドが案内する先には手足を拘束して、
永久に性行動をさせられる装置が待っていた。
「皆さんはこれから性欲が止まらなくなる薬を飲んでもらって、
指定の時間まで休むことなく性を発散させてもらいます!
二度と肉欲にとらわれることがないほどに!」
顔がひきつった。
これから始まる"肉欲"の克服拷問もそうだが、
まだツアーの罪は3つ。残り4つの克服が残っている。
――まだ半分も終わっていない。
「いやだ……いやだ……もういやだ……!」
俺は必死に逃げた。
幸いだったのは2つあった。
参加者もガイドも装置にかかりきりだったので誰も追ってこないこと。
来た時のバスとは別のバスが止まっていたこと。
「しめた!! このバスに潜り込めばここを出られる!」
バスに紛れ込むと、すでに客がそろっていた。
でも俺が1人加わったことで誰も気が付かない。
「はぁ……助かったぁ」
まもなくバスは発車し、あの場所から遠ざかっていく。
行き先なんてどこへでもいい。
とにかくあの場所から遠ざかれるのならなんでも……。
すると、バスガイドらしき人がマイクを持ってバスの先頭へ立った。
「みなさん、今日は克服ツアーへご参加ありがとうございます。
当バスはまもなく目的地へと到着します」
全身の毛がぞわりと逆立った。
でも、もう遅かった。
「では、みなさん!
108の煩悩克服ツアーはじまりです!!!」
作品名:7つの大罪克服ツアーへ潜入中! 作家名:かなりえずき