冒険の書をあなたに
第六章 山奥の村にて〜家族のかたち
ルーラで次に訪れたのは、サラボナという賑やかな街だった。
ビアンカがどこか嬉しそうに街のほうを眺めている。
「ここからは船で北上して、そこからは徒歩です。疲れたら遠慮なく言って下さい」
リュカが地図を広げて説明し、そのまま船に乗り込んでいく。
リュカ一家の帆船は小型ではあったがよく手入れされており、古さをさほど感じない。
デッキの上では早速ティミーとポピーが競いながら白い帆を張っていく。
リュカが舵を取り、潮風を孕んだ船は穏やかな水面を滑るように動き出した。
鼻先を掠める潮風の匂いにアンジェリークは目を輝かせて、遠ざかる町並みを見つめている。
「ねえルヴァ、海の匂いがするわね!」
砂漠の星出身の彼のことだ、海やら船旅やらといったものにきっと高揚しているだろう、とアンジェリークが振り返った。
が、アンジェリークの予想に反してルヴァは平然と内海を眺めていた。
「……ルヴァ?」
「はい、どうしました?」
「ううん……なんでもない。あんまり反応してないなあ、って思ったの」
ひくりと頬を引きつらせてルヴァが少々素っ頓狂な声を上げた。
「え、あっ……! そ、そんなことないですよ、少し考え事をしていたんです。ここは内海ですから波が穏やかだなあ、なんて」
アンジェリークが少しだけ首を傾げ、じっとルヴァを見つめた。
純粋なその瞳に、もしかしてバレてしまったのではないかとルヴァは内心どきどきしていた。
敵が襲ってくることもなく、船はサラボナより北にある陸地へ到着した。
一行はそこから徒歩でビアンカの故郷へと向かい歩き始めた。
歩き始めて間もなく、鄙びた村が遠目に見えてきた────山奥の村だ。
今にも走り出しそうな勢いでビアンカが嬉しそうに歩いている。
「お父さん元気かなー。うふふ、楽しみだわ!」