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しょうきち
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冒険の書をあなたに

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第三章 テルパドールにて〜砂漠の薔薇を探して


 翌朝、リュカ一家はヘンリー一家と出立の挨拶を交わして──案の定ヘンリーが少し涙ぐんでいた──ルーラで砂漠の国テルパドールへとやってきた。
「ルヴァ殿、大丈夫ですか」
 心配そうに覗き込むリュカへ、額に汗を滲ませながらルヴァが微笑んだ。
「ええ、ご心配なく……。前回よりは慣れたみたいです」
 ルーラ後の気持ち悪さよりも何よりも、まずはテルパドールの風景が見てみたかった。
 視界には遮るもののない、辺り一面に茫漠と広がる砂の海。岩山に囲まれた島全域が砂漠地帯になっている。
 まだ朝方だというのに容赦なく降り注ぐ灼熱の陽射しに、砂丘を吹き荒ぶ風の音。

「…………」
 こちらは故郷よりも白い砂だけれど、空もずっと青く澄んでいて美しいけれど……懐かしさだけで胸が一杯になって、ルヴァは出すべき言葉をすっかり失ってしまっていた。
 ゆっくりと砂漠を見渡しながら言葉無く立ち尽くすルヴァの手をアンジェリークがそっと握ったとき、うろうろと彷徨っていた視線がようやく彼女へと向いた。
「あ、ああ……すみません、暑いでしょう。早くお城へ行きましょうか」
 ルヴァは歓喜と悲哀とが入り混じった、形容し難い表情を浮かべていた。
 アンジェリークはそれについて何一つ聞こうとはせずに、握った手を両手で包み込むに留めた。
 そしてこの優しき一家もまた、ルヴァの表情に皆何かを察して言葉少なだ。
 リュカがそっと見守るかのような目をして話し出す。
「アイシス様のところへ先にご挨拶に伺いましょう。城内は涼しいですよ」

 リュカの言う通り、城内は澄んだ水が流れ涼しい空間が広がっていた。
 屋内、しかも地下に庭園があることにアンジェリークは感嘆しつつ、マルセルやリュミエールの執務室に再現できないかと考えを巡らせていた。
 その庭園に置かれた椅子に、艶のある黒髪の女性がゆったりと座っている。
 彼女はリュカ一家に気付いて婉然と微笑み、次いでアンジェリークとルヴァにも視線を投げかけた。
 リュカが前へと進み出て膝を折り一礼する。
「お久し振りです、アイシス様」
 同じく片膝をついて頭を下げたティミーへも、優しい微笑が向けられた。
「まあ、皆様ようこそいらっしゃいました。……いよいよ対決のときも近いと、夢のお告げがありました。どうかその勇者としての力で、この世界を覆う闇を振り払って下さい」
 そしてアイシスはすぐに女官を呼びつけ、椅子とお茶の用意を言いつけた。
「……今日は、そちらの方々についてのお話があるのでしょう?」
 てきぱきと人数分の椅子が置かれていく間にリュカがことの顛末を説明する。
「はい。このお二人は先日異世界より突然こちらへ呼ばれてしまったため、元の世界へ帰る手段を探しています。アイシス様なら何かご存知ではないかと思いまして」
 どうぞお掛けになって、と着席を勧められて一同が席に着いた。
「そうですか……確かに、ここ最近意味の分からない夢を見ていましたわ。そこには大きな書架が出てきました──その中の青い表紙に金の箔押しがある本を開くと、本の中に描かれた星が降り注ぐ、これまで見たことのないほど美しい夢を」
 ティミーとポピーが勧められたお菓子を口に運ぶ様子に、アイシスの頬が緩む。
 しっかりと描かれたアイラインのお陰できつく見られそうな美しい顔立ちは、微笑むと少女のようなあどけなさだ。
 リュカが口元を押さえながら唸った。
「書架……やっぱり本にまつわる話なのか……。でもアイシス様、どんな書架を探せばいいんですか」
「そうですね……見た感じでは余りにも巨大な書架でしたが、そんな書架のある城なら我が国の学者が存在くらいは知っている筈……しかし訊ねてみても分からないのです。なのであれは恐らく人の世界ではないように思えます。先に人以外のものたちが住まう場所の図書館を探してみたほうが早いでしょう」
 テルパドールの学者は天空の勇者について調べていた。この世界にもしそれほどの書籍を扱う図書館があったなら、真っ先に行っているだろう。その学者が知らない場所────それこそ人為らざるものの住まう場所にしか、存在し得ないのではないか。
 リュカはアイシスのその言葉に納得し、深く頷いた。

 一行はその後アイシス女王と昼食を共にして、丁重にお礼を述べてから城外にある宿屋へと向かった。
 ティミーがリュカの服の袖をちょいと引っ張った。
「ねえお父さん、今日はここに泊まっていくの?」
 その言葉へにこりと頷くリュカ。
「うん、きっとお疲れだろうからお二人にゆっくりして貰いたいしね」
 テルパドールの風景に見入って、少し淋しげではあったが慈しむようなまなざしをしていた。
 彼の過去は知らないがそう簡単に帰れるような故郷でもないのだろう、とリュカは思った。
「じゃあお兄ちゃんと一緒にちょっと遊んできてもいい?」
「ルヴァ殿がいいって言ったらね」
「えーっ、わたしも行きたいよ、お兄ちゃん……」
 子供たちが揃いも揃ってルヴァの名を口にする。
 この優しく聡い異世界の賢者は子供たちの心を捕らえて離さないようだ。
「ダメ。ポピーとお姉ちゃんには内緒の話があるんだ。お兄ちゃん一緒に来て! 早く早く!」
 ぐいぐいと袖を引かれ、ルヴァは慌てて後ろを振り返った。
「あーではちょっと出かけてきますねー。遅くならないうちに戻りますので。あああのティミー、そんなに引っ張らないでー」

「行っちゃったあ……またわたしを置いてくんだから。お兄ちゃんのばかー!」
 ぶんむくれてそっぽを向くポピーに、アンジェリークが囁いた。
「じゃあ、こっそりついてっちゃおうか? ポピー探偵の追跡!」
 アンジェリークからの提案にぱあっと頬を赤らめて、ポピーの口角が上がった。
「それ、すっごく楽しいと思います! 天使様!」
 天使様と呼ばれることに慣れてはきたが、ティミーのようにお姉ちゃんとでも呼んでもらえたほうが気楽だな、とアンジェリークは苦笑する。
「アンジェでいいのにー。わたしフツーの人間だもの」
 ポピーは驚いたように真ん丸に目を見開いて、それから少しはにかんでスカートを掴んだ。
「じゃあ……アンジェ様って呼んでも、いいですか」
 アンジェリークの翠の瞳が嬉しそうに細められた。
「天使様よりずーっといいわ! さあ、行きましょうね」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち