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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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お弁当ドラフト会議

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お弁当ドラフト会議場は緊張に包まれていた。

「俺……選ばれるかな」

ちくわきゅうりはドキドキしながら行方を見守る。

「ちくわきゅうりって弁当の中では
 あってもなくても大した存在感がないけど……。
 今回の弁当は運動会用だろう? チャンスあると思うんだ」

「ええ、あなたはきっと選ばれるわ……。
 でもわたしは無理よ……」

「何言ってるんだよ、ひじきの煮つけ!
 君も俺と一緒に選ばれるに決まってる!」

「この時期は傷みやすいのよ……。
 わたしなんか選ばれるわけないわ……」

「約束したじゃないか!
 一緒にお弁当に入るって!
 そしていつか重箱(メジャー)入りするんだって!」

「あなたと私とじゃすむ世界が違うのよ……」


――まもなく、ドラフト会議がはじまります。


会場は暗くなり、正面のディスプレイには
弁当入りが決められるおかずが表示される。

ちくわきゅうりも、ひじきの煮つけも
心の底から自分の名前が出ることを望んでいる。


『1番 右上隅 厚焼き玉子』


会場からは"おお"という声が漏れた。
玉子は選ばれて当然と自信満々の表情。

これで右上のスペース(ファースト)が埋まった。

「やっぱり無理なのよ……」
「まだ弁当のスペースはあるよ」


『2番 左隅 ポテトサラダ』


まさかの采配に今度は会場から驚きの声が漏れた。

「ポテトが選ばれたぞ!」
「子供が苦手なんじゃなかったのか!」
「ママさん、この弁当に勝負をかける気だ!」

「ああ、終わったわ……。
 ひじきの煮つけとポテトサラダは共存できない……。
 汁物は完全に生きる道を失ったわ」

「大丈夫! まだスペースは残ってるって!」

そう励ましたちくわだったが、内心焦っていた。
まるで自分は選ばれるように声をかけているがそれすら怪しい。

ママさんはこの弁当を子供の好き嫌い克服にかけている。

つまり、無難や定番なものは極力抑えられたオールスター構成。
ちくわきゅうりのような"あってもなくてもいい"おかずが入るスキは限られる。


『3番 右下隅 からあげ』
『4番 中央上 ナポリタン』
『5番 中央下 たこさんウインナー』

どんどんお弁当のスペースが埋まっていく。

『6番 仕切り上 カニさんウインナー』


ふたたび会場がどよめいた。

「ダブルでウインナー!?」
「ポテトサラダでのフォローをするつもりか!」
「こ、こんな采配があったなんて!!」

ポテトサラダで子供の機嫌をそこねつつも、
ダブルウインナーでの華麗なるフォローで機嫌を戻す。

それはママさんの策士ぶりと同時に、
自分が選ばれる可能性をさらに狭める絶望を意味していた。

「終わったわ……なにもかも……。
 もう無理よ……残りのスペースを考慮しても、
 私がドラフト入りしても、フォローする品目数がない……」

もうひじきを励ましてあげられる余裕もなくなった。

「ちくわ……あなたとの夢、一緒に見られて嬉しかった……。
 私は煮つけが好きそうな高齢者のお弁当にいくわ……」

「待って! 俺に考えがある!」

ちくわは弁当に向かって走り出した。

「もうなにやっても無駄よ!」

「いいや絶対に選ばれる!!」

ひじきは遠くなるちくわの焼き目に声をかけた。



『9番 仕切り下 アスパラベーコン』



その瞬間、すべてのおかずスペースが埋まった。
ちくわもひじきも選ばれることはなかった。

 ・
 ・
 ・

運動会当日、無事に弁当入りしたちくわとひじきは上機嫌だった。

「ああ、やっぱり子供の弁当箱はいいわぁ!
 開いてくれた時のリアクションが最高なのよ!
 もう今から楽しみでしょうがないわ!」

「だから言っただろ、"絶対に選ばれる"って」

「ええ、あなたの言葉を信じてよかったわ」

ひじきとちくわはにっこりと笑いあった。

「でも、どうして私たちが選ばれるようにしたの?
 アスパラベーコンが選ばれた時点で
 もう私たちが入るスペースはなかったじゃない」

「それはね……」

ちくわきゅうりが言いかけたところで、弁当箱が開かれた。

晴れ渡る空からの光を背に浴びて、
子供の笑顔が弁当箱の四角い空にカットインしてきた。

「わぁ! ママ、今日のお弁当はすっごく豪華だね!!」

はしゃぐ子供の顔はすぐに不思議そうな顔に変わった。




「ねえ、ママ。どこにもご飯がないんだけど……」