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Quantum

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4. Notion



 こうと胸中定まれば次の一手を早速シャカは打とうと、シオンに自ら考えた案を願い出た。「ふむ」としばらく思案に耽るシオンは次には諾の言葉を告げた。「なかなかに容赦のないものだな」と一言添えて。
 それもそのはず、何せ教皇には『意識不明の重体になっていただく』必要があったのだ。当のシオンは考えていたプランよりも趣向が凝っているとむしろ喜んでいた。変態か。
 一応、念のため……と、教皇シオンが考えていた計画がどのようなものだったのかとシャカが尋ねれば、しれっと「おまえに幻朧魔皇拳でも打ち込んで、一発ヤラれなきゃまともに戻らないという新技に挑戦してやろうかと思っていた」ときたものだ。
 そうか、そうくるのか。米神をヒクつかせながら、思わず「もげろ」と小さく呟きつつ、遠慮なくシオンには重体になっていただくということに目出度く決定した。
 だが、その計画を進めるにも、聖域の機能を止めるわけにもいかないため、そこはアテナにも協力してもらう必要があるだろうと根回しやら下準備を余念なく進める必要があった。あと一人、シオンと旧知の仲である童虎にもあらかじめ事情は告げて、次期選出から外しておくとのことだった。まぁ当然といえば当然なのだが。
 アテナは教皇やシャカとは違って懸念を示したが、「玉座に相応しき者を添えるべく」と、教皇が揺るぎ無い態度に徹したことでアテナも折れざるを得なかったようだ。場合によっては長期戦になることも覚悟しつつ、Xデーを前にシオンは瞑想の宣言をして一室に籠った。手持ち無沙汰なシャカはならばと自分用に宛がわれた部屋に籠り、様々なシミュレーションを重ね、来たるべきその日へと備えていた。

「―――シャカ、起きよ」

 1週間ほど瞑想という名目で籠っていたシオンがひょっこりと足を運び、シャカの元に姿を現したのはシャカが寝台に滑り込み、浅い眠りに身を委ねた頃だった。ちなみに傍から見れば仰向けのシャカの上に四つ這いで、上からシャカを見下ろすシオンの構図。立派な夜這いでしかない態勢だ。わざとか。わざとなのか……はぁ……。もう、いちいち反応するのも面倒なのでそこのところは華麗に大人スルーに徹するシャカである。仕方なくシャカは身を起こすと、消したばかりの灯りをまた燈した。

「何用で?」

 ふふんと上機嫌に鼻を鳴らした不法侵入者シオンは起き上がったシャカの前で胡坐をかく。そして手を翳すと何もなかったそこに深い朱色に黄金に輝く装飾が施された棒状の物が現れた。およそ両腕を伸ばしたくらいの長さと同じか、少し超えたぐらいだ。

「急ぎ作った物だが、今後多少は役に立つであろう。命の遣り取りとまではいかずとも、それ相応に厳しい闘いにもなるであろうしな。かといって全力でおまえ自身が本来の小宇宙を開放しておまえの得手とする技を放つわけにもいかぬだろう?この武具はおまえの小宇宙をうまく変容させて、扱い方次第では鉾となり盾となるものだ」
「それは確かに。棍ですか、これは?見た目は如意金箍棒のようにしか見えませんが……ほう……面白い」

 受け取ったシャカは棍棒をじっくりと観察した。握るのにちょうどよい太さで手にしっくりと馴染む。なめらかでありながら、滑り過ぎるというわけでもない。何より美しい細工も施されていて、まるで国宝級の美術品のようにさえ思えるが、シャカには何よりも馴染み深い性質がそのものから感じられた。

「―――なるほど。これは……聖衣と同じ材質で?」
「さよう。寝る間も惜しんで、聖衣と同じ素材で作ったものだ。黄金聖闘士たちを相手に丸腰で、だからといっておまえがバルゴを纏うわけにもいかぬ。棒術の心得ぐらいあれば、うまくやり過ごすことができるように誂えた一品だ。詳しい仕組みは言えぬが、おぬしの小宇宙を込めて聖衣に打撃を与えれば、その部位の聖衣が麻痺する、まぁ麻酔針みたいなものと考えればよい。といっても場合によっては、麻酔針というよりは一撃必殺の毒針―――殺傷能力すらあるだろう。うまく扱えば、聖衣が枷となって動きを封じることができるし、封じられた範囲が広ければ聖衣は所有者の肉体から離れるだろう。そして、その聖衣の麻痺はわしではないと治せぬ。よって戦線離脱というわけだ」
「ムウは?ムウもあなたと同じく知識を有するものなら、聖衣を治癒(なお)すことも可能では?」
「余計な心配は無用。この武具にはちょっとした細工を施しておるのでな、あれには解けぬよ。ムウなどヒヨっ子、まだまだわしの足元にも及ばぬわ」
「そこまでおっしゃるなら、そういうことにしましょう。確かにこれは払い捌くのに良いものだと思います。シオン教皇作如意金箍棒しかと受け取りました」

 シャカは手を翳してみせると、すうっと浮き上がった棒は霞み消えるようにシャカの掌へと吸い込まれていった。





作品名:Quantum 作家名:千珠