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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ニンゲン宝石店

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この世界に宝石は数あれど
ニンゲン宝石が出てからは最近の主流はそっちだ。

彼女にプロポーズするならニンゲン宝石しかない。

「なにかお探しですか?」

「実は彼女にサプライズでプロポーズするんですが、
 この店でおすすめの宝石はありますか?」

店員はにこりと笑い、慣れた手つきで案内する。

「こちらなんかいかかでしょう?
 宝石はオパールで、中にはジャイケルマクソンを入れています」

「へぇ、ニュースでは死んじゃったと聞いていたけど」

「真実はニンゲン宝石にしたんですよ。
 いかがですか? 持っているだけでスター気分ですよ」

「うぅーーん。僕も彼女も日本人だからなぁ」

「でしたら、こちらなんかいかがでしょう?」

店員が今度持ってきたのは透き通るような青い宝石。

「サファイアをベースとし、ラウンドブリリアント加工をしております。
 中には尾咲豊さんを入れていますよ」

「えっ!? 死んじゃったんじゃないですか!?」

「本人の希望でニンゲン宝石になったんですよ。
 当時の技術とはいえ、今でも色あせないほどの価値があります」

「これは……いいですねぇ」

宝石周りが複雑に乱反射しているようにカットされている。
宝石の中に入っている尾咲豊を青い光が
さながらスポットライトのように照らして美しい。

「これ、買います。明日にお金を用意します」

「毎度ありがとうございます。
 では、お取り置きしております」

店を出ると良い宝石が見つかったウキウキ気分で鼻歌を口ずさんだ。
真っ黒い服の男とすれ違い、慌てて鼻歌を中断。
ちょっぴり恥ずかしい思いをするほど浮かれていた。



翌日、店に行くと変わり果てた惨状に目を見張った。

「い、いったい何があったんですか!?」

「泥棒です、お客様!
 お取り置きしていた宝石が盗まれてしまいました!」

「なんだって!? それは困る!
 今日は彼女の誕生日で今日を逃したら次はないのに!」

「警察には連絡しましたが日曜日で道路が渋滞して……」

「くそ!! それはいい! 犯人はどっちへ行った!」

「あっちです! 全身黒づくめの男でした!」

店員の指さす方向へ全力疾走。
これでも学生時代位は陸上で大会に出たこともある。

昨日すれ違った黒づくめの男が犯人なんだろう。

「絶対許してたまるかぁぁぁ!!」

自分でもびっくりするほどの全力疾走。
ついに犯人を追いつめることができた。

「見つけたぞ宝石泥棒。
 よくも俺のプロポーズ大作戦を邪魔してくれたな。
 宝石をこっちへ渡せ!」

「はい」

「あっさり!?」

あまりにあっけなく渡すものだから拍子抜けした。
まあ、俺としては宝石が戻ってくるにこしたことは……

「おいおいおいおい!!
 尾咲豊は!? 中に入っていた尾咲豊がいない!!」

「ついに見つけた……ずっと探していたんだ……。
 今日ですべてが報われた……」

「何言ってる! いいから尾咲豊を返せ!!」

まるで話の通じない宝石泥棒と押し問答を続けるうち、
通報でかけつけた警察が男を逮捕した。

「ご協力、感謝いたします。
 あなたが捕まえたのは宝石泥棒の常連です。
 我々も捕まえるのに苦労していたんです」

「それはいいことをしました。
 ところで、尾咲豊は?」

「……残念ながら見つかりません。
 そのお詫びもかねて、私どもからぜひ会見を開いてもらいたいと」

「テレビに出られるんですか?!」

「はい、大泥棒をひとりで捕まえた英雄として」

これ以上のご褒美はあるだろうか。
俺はさっそくカメラの前にたって、脚色しつつもことのあらましを話した。

「ええ、そこで僕は追いかけたわけですよ。
 必死に逃げる犯人と追う僕。
 それはまるでハリウッド映画のカーチェイスのような……」

はっとした。
人垣の向こうで彼女が手を振っていた。

慌てて壇上を駆け下りて彼女のもとへと向かう。

「連絡がきて驚いたわ。
 私の誕生日にこんな素敵なヒーローになってくれるなんて」

「ああ、今後俺と連れ添っていれば一生有名人になれるよ」
「嬉しいわ!」

彼女が抱き付いてくる。
宝石を出すならこのタイミングだろう。

俺はそっと小さな小箱を開けた。

「俺と結婚してほしい。
 この宝石にはなにも詰まってないけど、
 これから君と俺との思い出をたくさん詰め……」

「いいえ、ぜんぜん空っぽじゃないわ」

彼女は俺の手をつかんで宝石へと触れさせた。

「ああ、やっぱりあなたは宝石に入っている方が素敵ね。
 とってもきらびやかで輝いていて、
 でも私の私生活を邪魔しない……最高だわ!」


宝石越しに見る彼女の顔はひどく青白く不気味だった。
作品名:ニンゲン宝石店 作家名:かなりえずき