404 NOTFOUND
放っておけばどんどん物が増えてしまい問題が起きる。
俺は世界でものが増えないように管理する
『404配達人』という仕事をしている。
「よし、次はこれを404にすればいいんだな」
使われないまま撤去もされない空き家を404にする。
「これでよし、と。
これで地図上からも人の記憶からも消えるな」
404にしたものはもう二度と戻らない。
それがあった歴史からごっそりと消える。
これで世界から物が溢れることもない。
「さて、次の仕事場は……海沿いの倉庫!?」
なんだか任侠映画で使われそうな場所。
嫌な予感しかしないが、しがない社会人である以上は
仕事をしっかり行わなければならない。
俺の嫌な予感は見事に的中し
倉庫には見て分かるようなコテコテの侠(おとこ)がいた。
「なんじゃてめぇコラ。
オレをここに呼び出してどういうつもりだコラ?」
「あ、えと……あなたを404にしなくちゃいけないらしくって」
「お? あ? オレが?
捨てられた子猫を拾うような優しいオレが?
なんで404にされなきゃならねぇんだ? あ?」
「あなたがいい人なのかどうかはさておいて、
とにかく仕事なので……」
「兄ちゃん、ナマ言ってるんじゃねぇぞ。
オレは生まれてこのかた悪事なんて一度も……」
「えいっ」
404にした瞬間に男は消えてしまった。
男の残したケータイを見てみても、表示がすべて
「404 Not Found」
になっている。仕事完了だ。
ついさっきまで張りつめていた緊張が解きほぐされた。
思わず恋人に電話した。
『もしもし? どうかした?』
「いや、久しぶりに命の危険を感じたら
君の声が聴きたくなって」
『あははは、なにそれ』
彼女の声にすっかり安堵して、次の仕事場を調べた。
次の404候補の名前を見たとき、ふたたび緊張感が戻った。
"佐々木 めぐみ"
僕の恋人の名前だった。
「そんな……どうして……」
『なに? どうかしたの!?』
彼女は超が付くほどの親切な人で、誰にも優しい。
聖母マリアが現代に生まれ変わったほどの人格者。
なのに404にするなんて納得できない。
ただし、404にする理由は本社に問い詰めても
企業秘密なので明かされることはない。
「すぐに隠れて! 知らない人が来ても絶対に通しちゃダメだから!」
『え? う、うん。わかった』
消させてたまるか。
彼女ほど優しい人は知らない。
404になんてさせるものか。
>解雇通知 404knot株式会社
恋人を404にしなかった俺は、
絶対順守の会社命令に背いたとして解雇された。
自分からも遅かれ早かれ辞めるつもりではったので、
解雇されても不満を感じたりはしなかった。
「さて……次は何の仕事をしようかな」
――ピンポーーン
再就職先を考えつつ玄関に出ると、
見慣れた制服の社員が待っていた。
ついこないだまで、俺が袖を通していた制服。
「404株式会社のものです。
あなたを404にしにきました」
慌ててUターンして窓から外に出る。
けれど、会社の連中は俺が逃げることも織り込み済みだった。
すでに外にも社員が待機して逃げ道をふさいでいる。
「本社からあなたをどうしても404にしろとのことです」
「俺がなにしたっていうんだよ!?
何も悪いことしてないじゃないか!
むしろいいことしかしてないぞ!」
「すべては本社が決めることなので」
「その本社も誰も見たことないだろ!
この世界のどこに404の本社があるんだよ!
顔も見たことない、場所もわからない会社を信用するのか!」
「そのことと、あなたを404にすることと
なんの関連があるんですか?」
社員はじりじりと距離を詰めてくる。
もうだめだ。
逃げられそうもない。
「では、行きます」
404 Not Found
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404にされた瞬間、周りの世界が一変した。
「ここは……?」
「ようこそ、404の世界へ。
ここは現実世界で消されたものが集まるユートピアです」
見てみると、俺がこれまで404にしてきたものや人もいる。
「恋人を守るあなたの心意気に、
404本社はいたく感銘をうけました。
そこで、あなたを404に招待することにしたんです」
案内役の指さす先に、俺が初めて見る404本社があった。
こんなところにあったのか。
現実世界じゃ見つからないわけだ。
「この404世界では優しい人しかいません。
あなたは選ばれたんですよ。
さて、あなたは誰をこの世界に呼びたいですか?」
404 Not Found
これが別の世界に行ったことを示す暗号だと気付く人は少ない。
作品名:404 NOTFOUND 作家名:かなりえずき