歯科矯正
もともと指しゃぶりの癖があり、出っ歯気味だったが、大学生の頃に親知らずがグングン生えてきてから歯並びが悪くなった。
いろんな方(主に年配の方)から、せっかくだから歯並びを直せばいいのに、と何度か言われたことがある。だがその時は決心がつかなかった。というより、あまり歯並びを気にしていなかった。これが壊滅的に悪い歯並びだったら決心もついたかもしれないが、残念なことに(?)ほどほどに悪い歯並びをしていた。
そもそも矯正は高いし、時間もかかるし、あのギラギラした装置を口の中にいれるのも嫌だった。
だが、当時アルバイトをしていた寿司屋のパートの奥様に、「歯並びだけは直しておいたほうがいい。私は直さなかったことを後悔してるし、いまだに口に手を添えないと笑えない」と力説されたのがきっかけで、とうとう歯科矯正をすることにした。その奥様は50代で、私より2つほど下の娘さんがいる。娘さんにはすでに矯正を始めさせているようだった。若々しくきれいで、ちゃきちゃきした方であった。そんな方にもコンプレックスがあるんだなと少し驚いた記憶がある。
件のパートの奥様に矯正を始めることを伝えたら、とても喜んでくれた。その方に矯正をするなら認定医が良いことや、評判の良いお医者さんなどを教えてもらった。
さっそく予約をとり、医院に出向いた。最初は何枚もレントゲンをとり、矯正完了までのシミュレーションをする。私の場合は顎の細さに比べて歯が大きすぎる、とのことだった。親知らず含めて、歯を計5本も抜くことになった。これは矯正医が紹介してくれた歯医者で抜いてもらうことになった。が、下の親知らずはまだ埋まっているため、切開が必要ということで病院で手術してもらった。歯茎を切開し、埋まっている親知らずをちいさなトンカチのようなもので砕き、取り出したあと、縫合する。私はこの説明を聞くだけで卒倒しそうになったが、先生は慣れた様子で、なんならだるそうですらあった。
手術中はタオルで目隠しされ、なにが起きているのかはまったく見えないのだが、口の中が大変忙しなく、また術前の先生の「舌は気にしないで、楽にしてていいからね」という言葉で全神経が舌に集中してしまい、冷や汗が止まらなかった。余談だが、歯医者で治療されている時、舌をどこに置くのが正解のなのか未だにわからない。
ともかく抜歯は無事に終わった。しばらく頬が腫れに腫れ、おたふくのような輪郭になり、周囲の人たちは心配しつつも笑いを堪えられない様子だった。
すべての抜歯が終わったあとは装置を入れたが、これが非常に痛い。ものを噛むと歯に激痛が走り、ろくに噛むこともできない有様であった。あとは滑舌が非常に悪くなり、慣れるまではカラオケに行っても呂律がまわらず、なにか喋れば何度も聞き返された。装置のギラギラが気になり、あまり口を大きく開けて話さなかったのも一因だろう。
だが矯正で何よりも困るのは、装置に食べ物が詰まることである。自宅ならいいが、外食した時なんかは装置にものが挟まってないか心配で仕方ないのである。特に米やパスタは挟まりやすく、取りにくいのでやっかいだ。私は辛いものが好きなのだが、辛い料理に必ずといっていいほど使われている唐辛子も曲者である。あれが装置のちいさな隙間に挟まると取れない。トイレに立ち、オヤジのように、楊枝で歯をシーシーやってなんとかするしかない。
矯正は面倒なことが多いが、そればかりではない。同じく矯正をやっている人と会うと、まるで同じ戦を戦ってきたような、戦友に出会ったような気持ちになれる。矯正あるあるから終了はいつ頃かまで話は尽きない。あとは私の場合、歯のケアに力を入れるようになり、器具をつけてなかった頃よりもかえって虫歯が減った。もともと虫歯ができやすく、定期検診の度に必ず虫歯ができていたのだが、今は滅多にできない。怪我の功名といった感じである。
なによりも、日々自分の歯並びが良くなっていくのを眺めるのはとても楽しいものである。歯並びが整うと必然的に横顔が整っていく。それも楽しい。以前は口元が前に出ていていわゆるゴボだったのが、だんだんとまっすぐに矯正されていくのを見るのがとても楽しい。
面倒だしお金もかかるが、私は矯正して本当に良かったと思っている。装置は今年中に外れる予定だが、その時が非常に楽しみである。
外国人は歯並びがきれいだなあと思っていたら、みんな幼少期に矯正をすませるそうだ。あちらでは歯科矯正は保険がきくので、とても安く済ませられるらしい。日本でもぜひ保険が適応されるようにして欲しい。
まあ、今は都知事の不祥事問題で、それどころではないと思いますが。