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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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成仏レストランのフルコース

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「死後レストランへようこそ。
 ここではお客様が現実世界での恨みつらみを
 おいしい食事でかき消して成仏してもらっています」

「そんなことはいいのよ!!
 早く私を現世に戻して!!
 あの男を呪い殺さなきゃこの怒りは消えないの!!」

「まあまあ、落ち着いてください。
 人間も幽霊もお腹が減るとイライラしてしまいます。
 さぁ、席についてください」

ヒステリックに叫んでいた女はしぶしぶ席に着いた。
その様子を見ていたホールスタッフは料理長に声をかけた。

「料理長、今度のお客様はなかなか恨みが強そうです。
 もしかしたら成仏できないんじゃないですか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。
 恨みなんて空腹に比べてば一過性のものです」

「僕はすごく心配です。
 女の人が怒ってナイフで刺してきたりして……」

「そうならないように、最高の料理でおもてなしするんですよ」

料理長は厨房へ入った。



「こちらが前菜になります」

スタッフは料理長の作った料理を完璧に運んだ。
女はあっという間に平らげるとまた声を荒げた。

「なによ、この量! 食べた気がしないわ!」

「まだ前菜ですから……」

「まどろっこしいことしないで!
 私は早く現世で浮気したクズ男を殺したいの!
 それをしなくちゃ成仏できないのよっ!!」

スタッフは厨房へ戻ると、
いましがた聞いたことを料理長へ伝えた。

「なるほど、それは困りましたね」

「もうこのまま地獄に引き渡しましょうか?
 料理長の料理でも成仏してもらえませんよ」

「そんなことはありません。
 ここは特殊なことをするしかないですね」

「特殊なこと?」

料理長は普段使わない秘密の冷蔵庫から。
変わった肉を取り出した。



「こちら、メインディッシュの肉料理になります」

スタッフが料理を運ぶと、
こんな場所から1秒でも立ち去りたい女はいっきに平らげる。

ああ、もっと味わってほしい……。

その様子を見ながらスタッフは考えずにいられなかった。

「食べたわ! これで全部ね!」

「いえ、まだデザートと食後のコーヒーが……」

「もういい加減にしてっ! 私はあの男を殺さなきゃならないの!
 こんなところでのんきにしてられないわ!」

「でも……」

「もういい! この店の料理長を呼んで!!」

息巻く女性の言葉に料理長が厨房からやってきた。

「お客様、お料理はご満足いただけましたか?」

「そんなことはもういいの!
 早く私を現世に戻して!!
 どうしても殺したい男がいるのよ!!」

「お客様、当店は成仏できない幽霊に
 成仏できるような料理を必ず提供しております」

「……は? だからなによ?」

「先ほど召し上がったお肉はいかがでしたか?」

「変わった味がしたわね、食べたことない食感だったし……。
 いったい何の肉だったのかしら……あっ!」

察しのいい女はハッとした。

「まさか……! 私が成仏できるような料理って……。
 あの男を殺してくれたの!? 私のために!?」

「当店はお客様の除霊(まんぞく)を第一としております」

それを聞いた女は大いに笑った。
その顔はすっかり満足していたものだった。

「やったわ! あの男が死んだ! ざまあみろ!
 私を裏切って浮気なんかするからよ! あははははは!!」

現世に未練がなくなった女は、大変するやきれいに成仏した。
また一人、死後レストランが迷える魂を救った。



客が立ち去った後、後片付けを始める2人。

「……料理長、あれは本当だったんですか?」

「あれとは?」

「人肉ですよ。僕、料理長がどうしてこのレストランで
 働かされることになったのかはわかりませんけど、
 わざわざ現世に行って人を殺してくるなんて……」

「そんな時間、あると思いますか?」

「えっ?」

料理長はにこりと笑った。

「あれはこの店にある秘蔵の羊肉ですよ。
 人肉なんて堅くて食べれたものではありません。
 私はお客様に最高においしいものを提供するのがモットーです」

「それじゃ、さっきのは……」

「味付けと調理方法を変えるだけで、
 料理は"食べたことないもの"に変われるんです。
 それを出すのが料理長としての腕の見せ所ですよ」

「そうだったんですね。
 本当に人肉を出したかと思って焦りました」

スタッフはハァと息をついて、後片付けを再開した。
プロ意識とおもてなしの心を忘れない料理長へ尊敬の念を
いま一度心に刻み込みながら、テーブルを拭いて回った。







「……あれ? でも、どうして料理長は
 人肉の味を知ってるんです?」