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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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かってに録音サイトMeTube

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それは後輩と一緒にやって来た飲みの席。

「先輩って、たった1年で大出世したんですよね?」
「CM業界って実力主義なのにすごいですよ」
「私たちに秘密を教えてください。MeTubeで聴き直すんで」

お酒も入っていい気分だった私は話すことにした。

「ええ、いいわよぉ。それはね――」

※ ※ ※

『音声自動共有サイト『MeTube』ができてから、
 政府での裏金はもちろん、犯罪率が大きく減りました。
 専門家のご意見を伺います』

『聴いたことが自動的にサイトに投稿されれば
 やはり悪さはできないでしょうなぁ。
 まったく、いい時代になったものです』

テレビでは最近なにかと話題のMeTubeを特集していた。
当時の私はまだ会社でも下の方だった。

必死に仕事を覚えようと、
毎日その日聞いた指示をMeTubeでリピートして勉強していた。

「はぁ……CM業界も楽じゃないわねぇ」

家に帰ってからも仕事をしていたときのリフレッシュ。
それは昔聴いた両親からの褒め言葉を
MeTubeで再生することだった。

2016/6/18
『よくやったわねぇ、自慢の娘だよ』
2022/2/14
『昔からあなたはできる子だったもんねぇ』
2023/12/10
『誕生日おめでとう、お仕事頑張ってね』

「よし、また明日も頑張ろう!」



その翌日。

「なんで昨日言われたことを失敗するんだ!
 絵コンテ通りCMを取れといっただろ!」

「すっ、すみません!」

昨日聞いていたはずなのに。
復習していたはずの音声だったのに。

上司からこっぴどく叱られてしまった。
勉強と実践との違いを嫌でも刻み付けられた。

家に帰ってからは真っ先にMeTubeへと接続する。

「なにか……なにかほめてくれる言葉……!」

過去に聞いた両親からの褒め言葉。
昔言ってもらった友達からの応援。
母校での先生から聞いた褒め言葉。

ありとあらゆる音声をMeTubeから探り当てて聴いていく。

そうでもしないとこの世界で自分が無価値のどうしようもないクズだと
そんな自己否定の気持ちでさいなまれてしまう。

会社の同僚が昔に言ったエールを再生しているときだった。


関連音声
2051/3/4 上司Nの悪口

あなたへのおすすめ NEW!

「上司Nって……あの人じゃない」

今日怒鳴られた光景を思い出した。
私は悪口なんて言わないから、誰かが聴いた悪口なんだろう。

――MeTubeは誰かが聴いた音声を自動的に投稿する。

「……私が聴いたわけじゃないし、聴いても悪くないよね」

おそるおそる動画をクリックした。


"つか、あいつ不倫してるらしーよ"
"まじ? あんなハゲ誰が相手するのよ"
"噂じゃキャバクラの子らしいよ"


声の反響具合から察するに女子トイレの会話だろう。
もっと大スキャンダルかと期待してただけに残念。

「ま、普段誰かが聴いてることなんてこんなものよね」

画面を閉じようとマウスを動かす……手が止まる。


この音声を聞いた人は、このような音声も聴いています
2050/4/5 受付嬢Pの黒い噂
2050/9/2 上司Nのセクハラ
2051/1/20 営業課Sのサボリ


どの音声も私についてのことはない。安心。
安心ついでに好奇心の赴くままに音声を聞いた。

翌日、私は目の下にクマを作って会社にやってきた。

「おはよーーって、うわっ。どうしたのその眼?」

「なんでもない……MeTubeやってたら、
 関連動画見まくってて寝不足ってだけだから……」

「それよりも人事異動の話、聞いた?」

「え? 人事異動?」

会社の掲示板に同僚と向かうと、
そこには上司Nが田舎の支社へ出向することが書いてあった。

「ほら、あんたの上司のNさん。飛ばされたみたいよ。
 なにかしたの?」

「……不倫?」

私は意識なく、昨日聞いた音声の情報を口にした。
同僚は初めて聞くようで目を丸くしていた。

「え、不倫してたの!? それで左遷されたの!?」

「い、いや私も聴いただけだけど……」

元から嫌われていた上司N。
"不倫がバレて左遷された"の噂は一気に会社に駆け巡った。

それこそ、本人にも。

「……君かね、僕が不倫しているなんて噂を広めたのは」

「え!? ち、違います!」

上司Nに会議室に呼ばれて糾弾された。

「今じゃ会社中で僕が不倫ということになっている!
 僕は単に妻の都合で支社へ異動することなのに!
 君が噂を流したせいで!」

「待ってください! これを見てください!」

私は最初に自分が聴いた音声を聴かせた。

「……ね? 投稿日時が私の噂よりも前。
 私はこの音声を聴いてうっかり話してしまったんです」

「……ふむ、誤解だったようだな。
 だが軽率に発言するんじゃないぞ、まったく」

閉め切られて息苦しい会議室を後にした。
数分の説教だったのに、まるで何日も閉じ込められていたみたいだった。

「はぁ、これで一件落着ね……」

安心した私は、MeTubeを開いた。



2051/6/18 NEW!
上司Nの不倫相手は部下M


「うそ……! なにこれ!?」

私の名前が入っている音声が投稿されていた。

"私さっき見たんだけど上司NとMが会議室に入っていったの"
"マジ? それじゃ不倫の相手って……"
"間違いないよ。あの子もどうなるんだろうね"

「違う……! 違う! 不倫なんてしてない!」

"あの子普段から影薄いからね"
"あーーわかる。手出しやすそうだもん"
"会議室で最後のキスとかしてたのかな"

「こんなの嘘よ! 全部でたらめじゃない!!」

MeTubeの音声再生回数はぐんぐん上がっている。
誰も口にしないけれど、みんなが噂を信じ切ってしまっている。

これじゃ私はただの不倫相になってしまう。

「そうだ! 削除申請すれば音声消してもらえるはず!」

慌てて削除申請を出す。
早く削除されないと噂は尾ひれがつきかねない。

MeTube運営からの返信は無慈悲なものだった。

"MeTube運営としてはこの音声が不適切なものかどうか
 判断できかねますので削除はできません。"

「そんな……」

私は音声の削除をあきらめるしかなくなった。


※ ※ ※


「……という話なの」

私が話し終わると、後輩はぽかんと口を開けていた。

「え? 先輩がどうやってこの業界で
 出世したかの話じゃないんですか?」

「それに先輩の悪口なんてMeTubeで聴きませんよ?
 やっぱり音声を削除したんじゃないんですか?」

「悪い噂を聞かれないようにして、
 ここまで出世できるなんてどうやったんですか!?」

消化不良の後輩たちは矢継ぎ早に質問を重ねる。
それに対して私は答えた。

「MeTubeで私の悪口を聞いてみればわかるわ」

後輩たちは手元のスマホで問題の音声を探し当てた。
今になっても削除されずに残っている。
しかも再生回数は100万再生以上。

後輩はおそるおそる再生ボタンを押した。



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