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レイドリフト・ドラゴンメイド 第17話 怒りのギャップ

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 人型から、時にタイヤ走行に変形し、重装甲で敵を翻弄するオーバオックス。
 獣じみた4本足と、低空飛行させるジェットエンジンで、岩場も森も我が物顔で走り回るマークスレイ戦車。
 そこに、10式戦車が盾役として加わる。
 陸上自衛隊も採用する戦車だが、ここにあるのはPP社によって運用されるものだ。
 歩兵を運び、サポートする四輪駆動車も数多い。
 その上、量子世界は、地球のさらに手練れの量子プログラム、久 編美、オウルロードによって支配を奪われ続けている。
 山脈の要塞も、遠く離れた海軍の艦隊を攻撃するのも、リモートハックされたチェ連側の兵器だ。
 戦闘機に混じって戦車が宙を舞う。
 目標は割れたガラスの様にとがったふちの、青空に空いた穴。
 その向こうには夜の闇と炎に包まれたフセン市がある。
 現実世界への門、ポルタ。
 この世界を作った科学者たちが潜むという。
 ポルタのまわりの青空に、戦車が何台も何度もぶつかるような、デタラメな攻撃。
 レイドリフト1号と2号による指導は、シエロにはダメ押しのように感じられた。

 次に、アウグル・久 健太郎の受け持つモニターを見た。
 アウグルは、ぬいぐるみじみた丸い頭と、円柱に近い胴体と手足をした、黒いアーマーを着ていた。
 彼の見る映像は、だいぶシンプルだ。
 中心にチェ連がある惑星スイッチアがあり、その周りに無数の赤い点がある。
 赤い点は引っ切り無しに互いにぶつかったり、地上に落下したりしている。
 スイッチアの空を覆う戦いの残骸、デブリだ。
 その真っ赤な画面に、4つだけ緑の点がある。
 レイドリフト四天王と呼ばれる、最大の戦力を持つ者たちだ。
 四天王から、ミサイルか何かを示す小さな点が出る。
 それがデブリにぶつかると、デブリが移動する。
 画面では小さく見えるデブリだが、実際には一つひとつが数キロの全長を持つ宇宙戦艦のなれの果て。
 それらは互いにぶつかり合い、せっかく開けた空間を再び埋めようとする。
 もしこのデブリが地上にぶつかれば、直径がデブリの10倍はあるクレーターができ、巻き上がった爆風は被害をさらに拡大するだろう。
 その時、四天王を表す点が、一つに重なった。
 そして一直線に地上へ向かいだした。
 行く手を遮るデブリを蹴散らし、キリのように突き進んでいく。
「1号! あいつらヤケを起こしたようです! 」
 アウグルが言った。
 やはりそうか。
 シエロはそのすさまじさを想像すると、胃が痛くなる思いだ。

 最後は、レイドリフト・ワイバーン。鷲矢 武志が見るモニターに目を向けた。
 彼が見るのは、現実世界のフセン市の様子。
 だが、シエロの視線は武志の顔に、くぎ付けになった。
 マスクとゴーグルに覆われ、モニターの光に照らされた白い顔。
 その白さが、タオルで拭えばぬれそうな、何か得体のしれない何かに思えた。
 自分と彼らを隔てる物。
 これと同じものを、シエロは見ていた。
 武志の恋人でもある、達美の顔だ。
 彼女は一人になると、柔らかい布をとりだし、それを手でひたすらもむ。
 ネコの習性の一つ、フミフミだと智慧に教わった。
 赤ちゃんネコが、お母さんのおっぱいをまさぐって、お乳をだす。それを思い出す、子猫に戻る幸せなひと時。だと聞いた。
 だが、達美の顔は笑っていたが、その顔にかかる影は、それまでシエロが見たことのない不気味さを持っていた。
 タオルで拭けばぬぐえそうな、実体のある何か。
 心の闇。
 今の武志を照らす、光と同じ感じがした。
 
 そして、シエロは忘れていない。
 武志の目の前で、達美をののしったことを。
(ペチャパイ! アバズレ! ロリコンの餌食! )
 その直後、ロケット砲まではなった。
(どうしよう。ど、どうすればいい!?)

「武志君が、気になるかい?」
 不意に声をかけられた。
 しかし、顔を向けても姿は見えない。
 次の瞬間、何もない空間に無数の隙間が走った。
 隙間は空間をたくさんの長方形に切り裂いた。
 そして、空間を滑るように動き、景色をゆがませる。
 歪んだ空間から現れたのは、アウグルのぬいぐるみじみた姿だった。
「ウッ! 」
 シエロが驚き声を上げたのが、アウグルには面白そうだ。
「メタマテリアル。可視光線を含む電磁波を曲げる素材は珍しいかい? 」
 そう。今までアウグルの体を覆っていたメタマテリアルは、太い針金の様なレールで運ばれ、アーマーの中にしまわれた。
 丸いヘルメットを外し、現れた男の顔は、開いているのか、いてないのか、わからない細い目だった。
 やわらかく笑う顔からは、力強さや腱と呼べそうなものを感じない。
 戦場で戦う姿を想像できない。
 シエロには、この男も不気味だ。

「君、グラマーな女性が好みなんだって?」
 四天王が降下したことで、仕事は終わったと判断したんだろうか?
 アウグルは次々に質問をする。
 だがシエロは、答えられなかった。
 その意図がわからない。
 ハイというべきか、いいえというべきか。
 その後アウグルがどう返すか。
 何をされるか全く分からないのが一番恐ろしい。

「あげないよ。この子はまだ5歳なんだ! 」
 そう言ってアウグルは、足元にいたランナフォンたちを抱きしめる。
「あの、お父さん? 」
 困惑したような久 編美・オウルロードの声。
 そしてランナフォンの頭上には、幽霊のようにオウルロードの姿が映った。
 フクロウをかたどった兜。そして折りたたまれた銀翼。
 銀色の鎧に包まれた肢体は、確かに豊かでしなやかそうだ。
 だが、彼女は。シエロにすればコレは、量子プログラム。物なのだ。
 それを娘として可愛がる久夫妻の苦悩は、分からない。

 それより、見えない者に監視されている圧迫感の方が、わかりやすかった。