ぼくの日常をHDリマスター!
自分の小説を持ってやってきた。
「ここが"HDリマスター専門店"か……。
本当にリマスターしてくれるんだろうか」
恐る恐る中に入ると、あっさり宇宙人がいた。
「あ、いらっしゃい」
「しかもフレンドリーに接してる!?」
宇宙人が普通に溶け込んでいることには驚いたけど、
最近HDリマスターした映画の中にも
宇宙人が地球で仕事している話があったので、10分で慣れた。
「この店ではHDリマスターをしてくれてるんですよね?」
「ええ、その通りです。
最近は何もかもがリマスターです。
映画にゲーム、テレビに……と一挙に引き受けています」
「なんで宇宙人がそんなことを……」
「これも新しい事業への足掛かりですよ。
それに私たち宇宙人は大量のたんぱく源が必要でしてね。
こうしてコツコツ努力しないと生きていけないのですよ」
「はぁ……宇宙人もお金には困るんですねぇ」
なんて世間話もさておいて、
俺は持参した小説を台の上に置いた。
「それで、俺の小説をHDリマスターしてほしいんです」
「はいわかりました」
「早っ」
本題は数秒でカタがついた。
映像じゃないのでもっともめるかと覚悟していたのに。
「こちらがHDリマスターされたあなたの小説ですよ」
「おお……すごい! ぐっと面白くなってる!」
俺が書いた小説には繊細で丁寧な状況描写が施され、
読んでいるとその情景がありありと浮かんでくる。
まさにHDリマスター。
元々が自分の書いた小説だったなんて信じられない。
「毎度ありがとうございましたーー」
その後、満を持して発表された俺の小説は
新人小説大賞を受賞して大ベストセラーになった。
>とにかく表現がすばらしい!
>作者は文才あると思います!
>ほかの新人にも読ませたい一冊
小説とは不思議なもので、
表現が魅力的であれば内容がなくても評価される。
「ふふふ……みんなこれがHDリマスター後だとは知るまい……」
もし、俺がリマスターせずに応募したなら
審査員のトイレットペーパーにでも使われていただろう。
料金はそこそこかかったが、それだけの価値はある。
「今度はなにをHDリマスターしようかな。
家電……家……彼女……あ、そうだ!」
HDリマスターしたい候補はいくらでもあった。
でも、それぞれをHDリマスターしてはお金がかかりすぎる。
手っ取り早く全部をリマスターする方法を思いついた。
・
・
・
「すみません、HDリマスターしたいんですが!」
再び店を訪れるも、宇宙人の店主はいなかった。
誰もいないのかと歩き回っていると、
店の奥にドアを見つけた。
「なんでこんなわかりにくい場所にドアが……?」
ドアノブに手をかけた瞬間、向こう側からドアが開いた。
「ああ、いらっしゃませお客さん。
すみませんね、ちょっと食事をしてて気づきませんでした」
「急に開けないでくださいよ、びっくりしたぁ。
ってそれより、HDリマスターしてほしいんですよ!」
「かしこまりました。
でも、今日はなにもお持ちでないですね?
なにをリマスターすればいいんですか?」
「俺を」
「は?」
「俺をHDリマスターしてください」
店主は大いに笑って、すぐに納得した。
「なるほどなるほど、その手がありましたか。
いやぁ、お客さんはかしこいですね。
自分自身をリマスターすれば、人生バラ色というわけですな」
「できますか?」
「もちろん」
HDリマスター化はすぐに終わった。
終わるなり、俺の見る世界ががらりと変わった。
「す、すごい……今まで灰色に見えていた世界が
色鮮やかでものすごく楽しそうに見える」
「お客さん、それだけじゃないですよ」
宇宙人は鏡を差し出した。
鏡の中に映るのは目鼻立ちがくっきりとしたイケメン。
「これが……俺ですか!?」
「あなたがHDリマスターされたことで見える世界もHD。
さらには、あなたの体もHDリマスターされています」
「ありがとうございます! ちょっとナンパしてきます!!」
街に繰り出すと、ごみごみしていた都会も
今では100万ドルの夜景に見えるほどにリマスターされている。
俺自身もリマスターされたことで、黙っていても異性が声をかける。
「最高だ! 人生バラ色どころか虹色だぜ!
HDリマスターばんざーーい!!」
と、喜んでいたのは1週間前。
今ではHDリマスターされた世界にも慣れてしまって、
それが当たり前になりありがたみも薄れてしまった。
「あーーあ、いっぺんにリマスターするんじゃなかった。
これじゃもうHDリマスターする喜びがなくなっちゃった」
今さら家電をHDリマスターしていいものにしても、
俺自身がすでにHDリマスター世界を見ているから変化も気付かない。
そんな物足りなさを感じる俺に1通のメールが届いた。
>お客様、4Kリマスターをしませんか?
宛先はいつものあの店。
俺は有り金全部をATMから取り出した。
「いらっしゃいませ、お客様。
来てくれると思ってましたよ」
「4Kリマスターしてくれるんですか!?」
「ええ、もちろん。
お客様がご自身をHDリマスターした日からアイデアを得て
新しいリマスターの方法を考えたんです」
「い、いいから俺を4Kリマスターしてください!」
「はい、ではこちらへどうぞ」
店の奥にある扉へと通された。
始めてはいる部屋は分厚いドアで中の音も聞こえないだろう。
「では、4Kリマスターを始めます。すぐに終わりますよ」
宇宙人は特殊な工具とエネルギーで、4Kリマスターを施した。
せいぜい数分だろうか。
「はい、終わりましたよ」
作業はすぐに終わった。
でも……。
「あれ? あんまり変わりませんね」
4Kリマスターになっても大して変わらなかった。
もっと劇的に変わるものと期待していたのに。
「いいえ、お客様。ぜんぜん変わっていますよ」
宇宙人は店に入って来た時の俺を、
ホログラフデータで俺の横に表示した。
「見てください。店に入って来たときよりも、
今のあなたのほうがずっと身長が高い!」
「あ、本当だ」
「そして、あなたの会社を見てください」
「あっ、すごい大企業になってる」
「そうでしょう? 4Kになってから給料も激増してるんです。
さらに、自分の学歴を確認してみてください」
「……東京大学首席卒業!?」
「4Kリマスターしたから学歴も良くなっているんです」
「それじゃ4Kリマスターって、
今の俺をを変えるんじゃなくて
過去の俺を変えるんですね」
「そうです! 高(K)収入・高(K)学歴・高(K)身長!
HDリマスターではできないことです!」
「まあ、そうですね」
嬉しくないことはないけれど、求めていたのはもっと劇的な変化。
俺の日常を根底から変えてくれるような刺激を求めていた。
4Kリマスターも悪くはないけど……。
「……ん? 待ってください。
高収入、高学歴、高身長で3Kですよね。
あとひとつのKはなんですか? 何をリマスターしたんです?」
「ここが"HDリマスター専門店"か……。
本当にリマスターしてくれるんだろうか」
恐る恐る中に入ると、あっさり宇宙人がいた。
「あ、いらっしゃい」
「しかもフレンドリーに接してる!?」
宇宙人が普通に溶け込んでいることには驚いたけど、
最近HDリマスターした映画の中にも
宇宙人が地球で仕事している話があったので、10分で慣れた。
「この店ではHDリマスターをしてくれてるんですよね?」
「ええ、その通りです。
最近は何もかもがリマスターです。
映画にゲーム、テレビに……と一挙に引き受けています」
「なんで宇宙人がそんなことを……」
「これも新しい事業への足掛かりですよ。
それに私たち宇宙人は大量のたんぱく源が必要でしてね。
こうしてコツコツ努力しないと生きていけないのですよ」
「はぁ……宇宙人もお金には困るんですねぇ」
なんて世間話もさておいて、
俺は持参した小説を台の上に置いた。
「それで、俺の小説をHDリマスターしてほしいんです」
「はいわかりました」
「早っ」
本題は数秒でカタがついた。
映像じゃないのでもっともめるかと覚悟していたのに。
「こちらがHDリマスターされたあなたの小説ですよ」
「おお……すごい! ぐっと面白くなってる!」
俺が書いた小説には繊細で丁寧な状況描写が施され、
読んでいるとその情景がありありと浮かんでくる。
まさにHDリマスター。
元々が自分の書いた小説だったなんて信じられない。
「毎度ありがとうございましたーー」
その後、満を持して発表された俺の小説は
新人小説大賞を受賞して大ベストセラーになった。
>とにかく表現がすばらしい!
>作者は文才あると思います!
>ほかの新人にも読ませたい一冊
小説とは不思議なもので、
表現が魅力的であれば内容がなくても評価される。
「ふふふ……みんなこれがHDリマスター後だとは知るまい……」
もし、俺がリマスターせずに応募したなら
審査員のトイレットペーパーにでも使われていただろう。
料金はそこそこかかったが、それだけの価値はある。
「今度はなにをHDリマスターしようかな。
家電……家……彼女……あ、そうだ!」
HDリマスターしたい候補はいくらでもあった。
でも、それぞれをHDリマスターしてはお金がかかりすぎる。
手っ取り早く全部をリマスターする方法を思いついた。
・
・
・
「すみません、HDリマスターしたいんですが!」
再び店を訪れるも、宇宙人の店主はいなかった。
誰もいないのかと歩き回っていると、
店の奥にドアを見つけた。
「なんでこんなわかりにくい場所にドアが……?」
ドアノブに手をかけた瞬間、向こう側からドアが開いた。
「ああ、いらっしゃませお客さん。
すみませんね、ちょっと食事をしてて気づきませんでした」
「急に開けないでくださいよ、びっくりしたぁ。
ってそれより、HDリマスターしてほしいんですよ!」
「かしこまりました。
でも、今日はなにもお持ちでないですね?
なにをリマスターすればいいんですか?」
「俺を」
「は?」
「俺をHDリマスターしてください」
店主は大いに笑って、すぐに納得した。
「なるほどなるほど、その手がありましたか。
いやぁ、お客さんはかしこいですね。
自分自身をリマスターすれば、人生バラ色というわけですな」
「できますか?」
「もちろん」
HDリマスター化はすぐに終わった。
終わるなり、俺の見る世界ががらりと変わった。
「す、すごい……今まで灰色に見えていた世界が
色鮮やかでものすごく楽しそうに見える」
「お客さん、それだけじゃないですよ」
宇宙人は鏡を差し出した。
鏡の中に映るのは目鼻立ちがくっきりとしたイケメン。
「これが……俺ですか!?」
「あなたがHDリマスターされたことで見える世界もHD。
さらには、あなたの体もHDリマスターされています」
「ありがとうございます! ちょっとナンパしてきます!!」
街に繰り出すと、ごみごみしていた都会も
今では100万ドルの夜景に見えるほどにリマスターされている。
俺自身もリマスターされたことで、黙っていても異性が声をかける。
「最高だ! 人生バラ色どころか虹色だぜ!
HDリマスターばんざーーい!!」
と、喜んでいたのは1週間前。
今ではHDリマスターされた世界にも慣れてしまって、
それが当たり前になりありがたみも薄れてしまった。
「あーーあ、いっぺんにリマスターするんじゃなかった。
これじゃもうHDリマスターする喜びがなくなっちゃった」
今さら家電をHDリマスターしていいものにしても、
俺自身がすでにHDリマスター世界を見ているから変化も気付かない。
そんな物足りなさを感じる俺に1通のメールが届いた。
>お客様、4Kリマスターをしませんか?
宛先はいつものあの店。
俺は有り金全部をATMから取り出した。
「いらっしゃいませ、お客様。
来てくれると思ってましたよ」
「4Kリマスターしてくれるんですか!?」
「ええ、もちろん。
お客様がご自身をHDリマスターした日からアイデアを得て
新しいリマスターの方法を考えたんです」
「い、いいから俺を4Kリマスターしてください!」
「はい、ではこちらへどうぞ」
店の奥にある扉へと通された。
始めてはいる部屋は分厚いドアで中の音も聞こえないだろう。
「では、4Kリマスターを始めます。すぐに終わりますよ」
宇宙人は特殊な工具とエネルギーで、4Kリマスターを施した。
せいぜい数分だろうか。
「はい、終わりましたよ」
作業はすぐに終わった。
でも……。
「あれ? あんまり変わりませんね」
4Kリマスターになっても大して変わらなかった。
もっと劇的に変わるものと期待していたのに。
「いいえ、お客様。ぜんぜん変わっていますよ」
宇宙人は店に入って来た時の俺を、
ホログラフデータで俺の横に表示した。
「見てください。店に入って来たときよりも、
今のあなたのほうがずっと身長が高い!」
「あ、本当だ」
「そして、あなたの会社を見てください」
「あっ、すごい大企業になってる」
「そうでしょう? 4Kになってから給料も激増してるんです。
さらに、自分の学歴を確認してみてください」
「……東京大学首席卒業!?」
「4Kリマスターしたから学歴も良くなっているんです」
「それじゃ4Kリマスターって、
今の俺をを変えるんじゃなくて
過去の俺を変えるんですね」
「そうです! 高(K)収入・高(K)学歴・高(K)身長!
HDリマスターではできないことです!」
「まあ、そうですね」
嬉しくないことはないけれど、求めていたのはもっと劇的な変化。
俺の日常を根底から変えてくれるような刺激を求めていた。
4Kリマスターも悪くはないけど……。
「……ん? 待ってください。
高収入、高学歴、高身長で3Kですよね。
あとひとつのKはなんですか? 何をリマスターしたんです?」
作品名:ぼくの日常をHDリマスター! 作家名:かなりえずき