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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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そんな黙とうじゃダメだぁ!!

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「では、全員……黙とう!」

クラス全員が目をつむって静かな時間が流れた。
すると間もなく先生は手をたたいて静けさを破った。

「ダメだダメだ!
 なんだその黙とうは! 全然心がこもっていない!」

「でも先生、やる理由もないのに黙とうなんて……。
 心がこもらないのも無理ないですよ」

「バカ野郎! 誰かが亡くなってから黙とうじゃ遅いんだ!
 亡くなってから下手くそな黙とうをささげるのか!?
 それじゃ死者も浮かばれない!」

6時間目の科目『黙とう』。
勉強しなくていいと喜んでいた生徒たちは
自分たちの考えがいかに甘かったかを理解した。

「いいか! 首はこうっ!
 斜め30°に傾けて、ややうつむかせるんだ!」

「え、ええ……?」

「ダメダメ! それじゃ傾けすぎだ! 30°!
 悲しさをまといつつも、未来への意思を感じさせる角度!
 ああ、ダメだ佐藤! それは45°だ!」

先生はクラスを巡回して首の角度を調整する。
世界中どこを探しても黙とうにここまで力を入れるのはないだろう。

「いいか、先生は黙とう検定1級を持っている。
 正しい黙とうをささげられるまでは、
 びしびし鍛えていくから覚悟しろ」

「黙とうなんて……練習しなくてもいいのに」

「なんていった?」

生徒の一人の声に、先生はぎらりと目を光らせた。

生徒全員が同意見ではあったが、
この状況では火に油どころか
ガソリンをポリタンクごと投げ込むようなもの。

「君たちはここに何を学びに来ている!
 教科書に書いてあることか!? 違うだろ!?
 君たちはここで"まだ知らないこと"を学んでいるんだ!」

ほら見たことか。
クラス中がうんざりムードに包まれる。

「先生が高血圧の体を推してもこの教壇に立つのはな!
 みんなに正しいことを学んでほしいからだ!
 それは黙とう一つにしたってそうだ!」

「先生、わかりました。すみませんでした」

「ようし! わかればいい。
 で、黙とうのポイントだが目のつむり方はこう。
 きつくつむるんじゃないぞ。優しく……優しくだ」

と、クールダウンした矢先に先生はまたブチ切れた。

「だーかーら!! そうじゃないんだって!
 その眼の閉じ方じゃトイレで踏ん張っているのと同じだ!
 こう! 眉間にしわを出さないように浅く、こう!!」

「違う違う! 手はそうじゃない!
 足の上にそっと乗せる感じだ! 自然な感じだ!」

「うおおおおおい!! だから首は30°!!
 その角度じゃ居眠りしているのと何が違うんだ!!」

黙とう検定1級なだけに、
素人の雑な黙とうには目が行ってしまい声を張り上げる。


「そんな黙とうじゃダメだあぁぁぁあっ――!」


教壇に立っていた先生の怒りが臨界点を超えると、
持病の高血圧によりそのまま後ろ向きでぶっ倒れた。

すぐさま救急車に運ばれて、
6時間目の授業は中止となった。

「えーー。6時間目の授業を担当していた
 黙刀先生は、入院することとなりました」

校長先生は教室に入って告げた。

「子供たちに知らないことを提供する。
 この学校の教育理念に誰よりも純粋な方でした。
 みなさん、黙刀先生に黙とうをささげましょう」

「黙とう!」

クラスは目をつむって、静かに黙とうをささげた。

あれだけ注意されていたことも今ではすっかり忘れていたが
誰もが自然と完璧な黙とうフォームを保っていた。

クラスの顔は誰もが穏やかで優しい微笑みをたたえていた。



静かに目を開けると、教壇には校長ではなく
また別の先生が立っていた。

「ええーーそれでは続きまして
 正しいお焼香の授業を始めたいと思います
 お焼香検定1級の私がびしびし教育します」

全員の笑顔が一瞬で引きつった。