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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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人質ちゃんで言いなり!

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『今日来れる? 新型愛phoneの列並んでおいて』
『友達割引になるからちょっと来てくれる』
『お前の家から片道2時間だけど大丈夫だよな? な?』

「ああ、もちろんだよ!」

いったいどこから友達付き合いを間違ったのか。
金と労力ばかりかかって充実感はない。

俺が明日急に消えたとしても、
彼らは「あ、そうなんだ」と天気予報を聞き流すみたいに
さらっと処理してしまうんだろうな。

いや、これはいつも俺がYESと返事してばかりだからだろう。

都合のいい人間として接されるのは俺が悪い。
あくまで肩を並べた友達だということを伝えなくては。

『明日さ、欲しいものがあるから買ってきてよ』

「わ、わ、わかったよ。
 そのかわりに、そっちで売っている限定フィギュア。
 俺のために買ってきてくれない?」

『あ? 無理』

ブチッ。
ツーツー……。


ダメでした。


「はぁ、やっぱり俺なんて誰にも必要とされていないし
 誰からも求められてないんだなぁ……」

わかっていたはずなのに、
改めてそのことを再確認させられた。はぁ。

翌日のことだった。
罠にはまった鶴を助けたわけでもないのに、
家の玄関にはキレイな女の子が立っていた。

「はじめまして、人質です。
 特技はスリです。よろしく」

「人質……えっ?」

「私、今日付けであなたの人質となった者です。
 これからは私を人質としてお使いください」

「わ、わかりました」

無表情の人質ちゃんの胸に手を伸ばしたら、
思い切り頬をひっぱたかれた。

「人質を傷つけるのはご法度です」

「すみません……。
 でも、急に人質言われても……」

「困ったときの人質としてお使いください」

「ええ……?」

なんだかわからないが人質は付き人のようについて回った。
二人でフィギュアショップに行った時だった。

「ええ!? 限定のバニーガール美穂ちゃんが売り切れ!?
 予約してたんですよ!? なぜですか!?」

「いえ、その……どこかの御曹司がやってきまして
 30倍の値段を出すからとどうしても……あはは」

「なんとかしてくだしさいよ!」
「いや無理です。お客様、お引き取り下さい」

ぐいぐいと店員に理不尽な理由で追い出される。
そのとき、人質が目に入った。

「全員動くな!! こいつがどうなってもいいのか!」
「キャータスケテー」

人質も熱演(?)で俺の脅迫を引き立てる。

「お、お前……何をする気だ……?」

「限定フィギュアを何としても仕入れるんだ。
 さもなくばこの女を……」

「わかった! わかったから! なんでもする!」

あれほど頑固だった店主がついに崩れた。
俺はやっと人質の使い方を理解した。

晴れてフィギュアを手に入れた俺は、
それからもことあるごとに人質を盾にした。

「今すぐ半額シールをこの弁当に貼るんだ!」
「給料を上げないとこの女がどうなるか!」
「食事代は割り勘だ! さもなくばこの女を……」

効果はてきめんだった。
人質を盾にした瞬間、誰もが俺の言いなりになる。


……はじめのうちは。

「あいつ、結局何もしないぜ」

何度も何度も人質を盾にしたことで、
ただのこけおどしだということがあっという間に広まった。

そうなれば俺は凶悪な人質犯から、
ただの痛い自己中男へと変わってしまう。人望なんてない。

「はぁ……もう人質の効果もないし、もうだめだ。
 これだけ人質を使ってわがまましてきたんだ。
 みんな俺のことをゴミとかクズと思っている」

「いいえ。そんなことはありません。
 あなたはきっと必要とされています」

普段は励ましの言葉は嬉しいはずなのに、
今は傷口に塩を塗られたようにいら立った。

「イヤミか!? 俺が必要とされてる!?
 そんなのウソだね! そんなわけない!」

「あなたが気付いていないだけで、
 みなさんはあなたを大切に思っています」

「思ってないね! 俺がどうなろうと知ったことか!
 どうせ誰も俺のことなんて……俺のことなんて……!」

必要としていない。
自分でも口にしたくないほど冷たい現実の言葉だった。

「試しますか?」

「へっ?」

人質は俺の手を引いて、町中にやってきた。
俺の友達を呼びつけると人質だけ先に行った。

「OKです。準備終わりました」

「準備? 俺の友達に何をしたんだ?」

「あなたの友達には何もしていません。安心してください」

「はぁ……なにを考えてるかわからないけど、
 俺が友達に必要とされているかを確かめるなんて……うっ!?」

人質は俺の後ろを取って拘束すると、俺の友達に叫んだ。


「これがどうなってもいいの!」


友達の顔は一瞬で青ざめて、俺の下へ駆け寄った。

「それだけは止めてくれ! お願いだ!」

「そんなに大事なの?」

「ああ、大事だ! 本当に心から大事に思ってる!
 本当だ! 信じてくれ! だから……助けてくれ!」

人質ちゃんに、逆に人質にされているおかしな状況。
それでも涙が自然と溢れて来た。

必要とされている。
それがわかったのが嬉しかった。

この世界で自分は一人ぼっちで誰の気にもされない。
それは俺の思い込みだった。

便利に使われて、パシらされることも多かったけど。
俺たちの間には確かな信頼があったんだ。

「……わかった、その言葉に免じて許してあげる」

人質は俺を解放した。

「……ね? あなたは必要とされているでしょう?」

「ああ、君の言う通りだ。俺が間違っていた。
 これからほかの友達にも会ってくるよ。
 きっと俺は信頼している。そのことに感謝しなくちゃ」

「ええ、行ってらっしゃい」

俺は思い切り走って、ほかの友達の下へ向かった。
こんな充実した気持ち、久しぶりだった。



※ ※ ※

男が去っていくと、男の友達は人質ちゃんに声をかけた。

「お、おいもういいだろ……?
 いい加減、ソレを解放してくれよ。
 それを盾に取られちゃなにもできない」

「いいえ、まだよ。
 もし、人質に取られていたのが
 こっちだということをあの人に話したら……」

「わかってる! 約束する! 約束するよ!
 人質に取られていたのはアイツじゃなくて
 こっちだったってことは誰にも言わないから!」

「わかったわ」

人質ちゃんは、男の友達に携帯電話を解放してあげた。

「ああ、無事でよかったよ、俺のスマホちゃん。
 もうスラれたりしないからね。
 この連絡先もアプリも絶対失くさないから」