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巣立ち

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近頃害鳥と言われるスズメも群れ飛ぶのを見る事も無くなり、あの嫌われ者のカラスでさえ数が減りました。
うちの巣箱にスズメが卵を産み温めています。このスズメの子育てを観察するのはとても楽しく時が経つのを忘れます。

オスメスが交代交代で温め、そして小さな雛がかえります。
それからの親の忙しさは人間もスズメも変わりありません。
「行ってきまーす」と巣箱飛び出したと思ったら、少しして何かを咥え戻ってきて上を向いてチイチイと鳴く雛の口にそれを押し込み又飛び出していく。
「あー忙しい、お茶する間も無い」って聞こえて来そうです。
スズメにインタビューした訳ではありませんが…
一言でスズメと言っても個性が垣間見られ、始終周りを気にするのとか大胆な奴とか様々に居て、忙しいからいちいち巣箱に取り付いたり、周り気にする事もなく小さな穴目掛け飛び込むのもいるのですが、どうやって止まるのか不思議でなりません。自然は凄いです!
「そんな事構ってたら雛が餓えるわ!もう私忙しいねん、ちょっとどいて」と関西のおばちゃん風に叱られる雰囲気で餌を運びます。

そして大きくなってくると、身体の大きいのは例え兄弟であろうと、どかして我先に食べようとする弱肉強食の世界、強いのは益々大きく育ち、気の弱いのは育ち難いのを
「あなた今食べたでしょ!!次はこの子なの」と叱るかのように他の雛にも餌を与え、糞を運び出します。
雌に至ってはもうメイクだの髪型だの構ってられません。
どの子も平等に子育てすると口で言うのは簡単ですが、なかなか難しい事です。
そして大きく育ちいよいよ巣立ち、その日を迎えます。

親鳥は以前の様に餌を口に運びません。片方は警戒役もう方は餌を咥え巣箱の前で「さあ餌を食べたければ、出てきなさい」と巣立ちを促すのです。
なかなか機会は無いですが、その光景を見ると「おおっ!今日は巣立ちか」と感動を覚えます。

巣穴では出ようか出まいか、羽根をバタつかせウロウロ
「行こうかな、でも怖いなあ」
後ろで兄弟が押したりして
「早く飛べよ!!」とキムタクばりの声がしています。
「飛べないのなら、一番なんて言うなよ」と言ってる子も居たりして
先頭は「押すなよ!!絶対押すなよ」とまるでお笑いの様ですが、もっとほのぼのできます。
そして気持ちを昂ぶらせ
「えい!!」と飛び立ちます。
本当にこれを見ると感動で胸が熱くなる。
小鳥だから余計必死さが伝わります。
何せ生まれて初めて高い所から飛び出し空を飛ぶのです。小さな羽根で必死に羽ばたきますが、まだ十分に空気を捉える事も出来ず、曲がる、止まるなど飛行技術も心得ていませんので、パタパタパタと羽ばたくだけで、それは落下を遅らせているとも言えるほど。
力一杯羽ばたくと近くの地面に無事着地
「ハアハア…飛べた」と荒い息遣いと安堵が伝わる様。私が居ても逃げる気も起きない程頭は真っ白なのでしょう。
続く兄弟も「エイ!」と飛び立ちますがここでも個性がみられ早くもそれなりの飛距離を出すのですが、コントロール出来ずお向かいの壁に べちゃともバサっとも取れる音を立て激突しました。見ている私がハッとするほど。
「痛て!!」と言う間もなくベランダへ落下
「あは~死ぬかと思った」などと声を出す(出しませんが)が親は助けもしません。
こうして一羽又一羽と巣立つのです。

全てが巣立つと意外にも今迄落ちたり激突した雛は親について飛べるのですからよく出来ていますよね。
家族まとまって飛び立つともう帰る事はありません。
雛が巣立った後の巣箱は引っ越しの荷物を出した部屋同様の寂しさがあるのですね。

この小さなスズメたちも、私飛べないのにどうしようなんて考えません。勿論遺伝子から飛べるのだしそんな考える知恵も無いですが飛べるのと信じ飛ぶのです。
始めは落ちる程ですが、練習を重ね自由に飛び出し、あの小さな穴へ飛び込み止まる事さえできる様になるのです。

誰だって勇気持って行えば、なんだってできる様になるのですよ。
自然観察はとても楽しく、そしてこんな小鳥からでも学ぶ事はあるのですね。

誰でも最初は怖いものです!
作品名:巣立ち 作家名:のすひろ