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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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 美紗は、聞き取れないほど小さな声で「本当にありがとうございました」と言って、日垣に深々と頭を下げた。

 「ずっと私のメンターでいてください」とは、やはり、言えなかった。


       ******

「あれ? でも確か、去年の春……、あ、梅雨時くらいまででしたっけ、お二人でこちらにいらしてましたよね。……ってことは、ええっと……」
 征は、指を折って計算すると、
「二年、……よりはちょっと短いのかな? その間、ずっと一緒だったんでしょ?」
 と、躊躇することもなく尋ねた。人懐っこい藍色の目は、美紗の顔がわずかに歪むのをとらえてはいないようだった。肩にかかる黒髪をかすかに揺らし、美紗は短く頷くと、レモン色と濃赤色が混じり合うコリンズグラスの中を見つめた。

 ひと月ほどで終わったはずのあの人との逢瀬を再開させた原因は、拭い去れない不愉快な過去の中にあったのか。それとも、自覚のないままあの人に魅かれていた自分の心にあったのか。その答えは、今も、分からない。