ムッキーマウス症候群に休みはない
「みんな盛り上がっていこう~~!」
「うっそぉ!? 本当に!? びっくりだ!!」
合コンが終わると、並々ならぬ疲れがのしかかった。
「はぁ……すっごい疲れた……」
合コンの最中もまったく楽しくなかった。
頭の片隅では帰ることばかり考えていた。
それでも必死にピエロになっていたのは自分でもわからない。
異性に飢えていたわけでもない。
孤独から逃げていたわけでもない。
なぜか、人を楽しませなければいけない使命感で無理をしていた。
「……病院で薬もらっとこう」
きっと市販で買うよりも疲れが取れる薬がもらえるはずだ。
「ムッキーマウス症候群ですね」
「……は?」
「ムッキーマウス」
「いやそれは知ってますけど」
医者の口からは変な病名を診断された。
この病院大丈夫なのか。
「誰かと一緒に居る時は、
自分を殺して常に笑顔になっている?」
「はい」
「自分の意思よりも、
相手が求めていそうな答えを行ってしまう?」
「……はい」
「どんなときも元気なふりをして
オーバーなリアクションをしてしまう?」
「…………はい」
「死にますね」
「なんで!?」
言ってるそばからオーバーなリアクションを取ってしまった。
「ムッキーマウス症候群は大変な病気です。
今はまだ疲れているだけでも、
自分の本心と葛藤し続けるストレスで死にますよ」
「な、なんとかしてくださいよ!?」
「無理ですね。
この病気の報告例は数あれど、治療例はありません」
「そんな!?」
「まあ、痔の薬は出しておくんで
飲んでればそのうち治るんじゃないですか?」
「治るか!!」
医者からもらった痔の薬を一応は飲んでみたが効果はなし。
俺の病気はどんどん悪化し、家にいてもムッキーのように
オーバーなリアクションで疲れ始める。
「こ、これはやばいぞ……。
このままじゃ俺はどこにいても何をしても
常にハイテンションでいなくちゃならなくなる!」
追い詰められた俺に残された解決策はひとつ。
それしか思いつかなかった。
俺は、ネズミーランドに足を運んだ。
本物のムッキーマウスに会いに行くために。
「ハハッ♪ 写真かな? もっと近くへ寄って」
ムッキーは園内でも元気で生き生きとしている。
まるでわが身を見るような気分になる。
「あの、写真じゃないんです。
あなたに相談したいことがあるんです」
「相談? ハハッ♪ いいよいいよっ。
グーフフィーのことかな?
それとも、園内の案内かな?」
「ムッキーマウス症候群についてです」
ムッキーはつい先ほどまでのコミカルな動きをぴたりと辞めた。
「……こっちへ来るんだ」
ドスのきいた声が口の空洞から聞こえてくる。
俺はムッキーの後ろについて歩いていく。
スラプッシュマウンテンの裏側にある扉を開いて個室に入った。
「こんな場所が……」
「ムッキーだけの秘密の場所だよ。
夢の国の世界観を壊したくないからね。ハハッ♪」
ムッキーは腕を組み、イスに腰を掛ける。
「それで? ムッキーマウス症候群だったね?」
「はい! ムッキーマウスのあなたなら
なにか治し方とか知ってるんじゃないですか!?」
「あれは不治の病だ。
君だって知っているだろう?」
「そう……ですか……」
淡い期待はもろくも打ち砕かれた。
「でも、治す以外の方法はある。ハハッ♪」
ムッキーはシリアスなトーンで語り始める。
「この病気の問題点は"心と体の不一致"さ。
ムッキーマウスのように振舞うことで心に負担がかかる。
でも、それが本心だと騙しちゃえばどうかな?」
「ムッキーマウス症候群が本心ってことですか?」
「病気は治せなくても、
病気の副作用で死ぬことはなくなるだろう。ハハッ♪」
「ありがとうございます!
おかげでどうすべきかわかりました!!」
・
・
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ネズミーランドはその日も混雑していた。
「ハハッ♪ みんなを魔法の国へ案内するよ♪」
大忙しのムッキーだが、
それを微塵も感じさせないコミカルな動きをしている。
そこに、思い悩んだ男が1人やってきた。
「あの……いいですか?」
「ハハッ♪ なにかなっ」
「実はぼく……ムッキーマウス症候群なんです」
ムッキーと男は、例のスラプッシュマウンテンの裏側の部屋へ行く。
そこで男の話を深く聞くことにした。
「……ということなんです。
ムッキーマウスであるあなたなら、
なにか治療方法を知っているんじゃないかと思って」
「ハハッ♪ 実は僕もかつては同じ病気だったのさ」
「ええ!? そうなんですか!!
それじゃ、治し方を知っているんですね!
いったいどうやって治したんですか!?」
「ううん。治せない。僕は今も治ってないよ」
「え……?」
ムッキーの黒い瞳の奥で、
ムッキーマウス症候群の男はにこりと笑った。
「ムッキーマウスになれば、
ムッキーマウス症候群で苦しむことはないだろう? ハハッ♪
この仕事を奪い取ってからは、すっかり楽になったよ」
作品名:ムッキーマウス症候群に休みはない 作家名:かなりえずき