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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ムッキーマウス症候群に休みはない

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「いやぁ、今日はすっごく楽しかったよ!」
「みんな盛り上がっていこう~~!」
「うっそぉ!? 本当に!? びっくりだ!!」

合コンが終わると、並々ならぬ疲れがのしかかった。

「はぁ……すっごい疲れた……」

合コンの最中もまったく楽しくなかった。
頭の片隅では帰ることばかり考えていた。

それでも必死にピエロになっていたのは自分でもわからない。

異性に飢えていたわけでもない。
孤独から逃げていたわけでもない。

なぜか、人を楽しませなければいけない使命感で無理をしていた。

「……病院で薬もらっとこう」

きっと市販で買うよりも疲れが取れる薬がもらえるはずだ。




「ムッキーマウス症候群ですね」

「……は?」

「ムッキーマウス」

「いやそれは知ってますけど」

医者の口からは変な病名を診断された。
この病院大丈夫なのか。

「誰かと一緒に居る時は、
 自分を殺して常に笑顔になっている?」

「はい」

「自分の意思よりも、
 相手が求めていそうな答えを行ってしまう?」

「……はい」

「どんなときも元気なふりをして
 オーバーなリアクションをしてしまう?」

「…………はい」



「死にますね」


「なんで!?」

言ってるそばからオーバーなリアクションを取ってしまった。

「ムッキーマウス症候群は大変な病気です。
 今はまだ疲れているだけでも、
 自分の本心と葛藤し続けるストレスで死にますよ」

「な、なんとかしてくださいよ!?」

「無理ですね。
 この病気の報告例は数あれど、治療例はありません」

「そんな!?」

「まあ、痔の薬は出しておくんで
 飲んでればそのうち治るんじゃないですか?」

「治るか!!」

医者からもらった痔の薬を一応は飲んでみたが効果はなし。
俺の病気はどんどん悪化し、家にいてもムッキーのように
オーバーなリアクションで疲れ始める。

「こ、これはやばいぞ……。
 このままじゃ俺はどこにいても何をしても
 常にハイテンションでいなくちゃならなくなる!」

追い詰められた俺に残された解決策はひとつ。
それしか思いつかなかった。


俺は、ネズミーランドに足を運んだ。
本物のムッキーマウスに会いに行くために。

「ハハッ♪ 写真かな? もっと近くへ寄って」

ムッキーは園内でも元気で生き生きとしている。
まるでわが身を見るような気分になる。

「あの、写真じゃないんです。
 あなたに相談したいことがあるんです」

「相談? ハハッ♪ いいよいいよっ。
 グーフフィーのことかな?
 それとも、園内の案内かな?」

「ムッキーマウス症候群についてです」

ムッキーはつい先ほどまでのコミカルな動きをぴたりと辞めた。

「……こっちへ来るんだ」

ドスのきいた声が口の空洞から聞こえてくる。
俺はムッキーの後ろについて歩いていく。

スラプッシュマウンテンの裏側にある扉を開いて個室に入った。

「こんな場所が……」

「ムッキーだけの秘密の場所だよ。
 夢の国の世界観を壊したくないからね。ハハッ♪」

ムッキーは腕を組み、イスに腰を掛ける。

「それで? ムッキーマウス症候群だったね?」

「はい! ムッキーマウスのあなたなら
 なにか治し方とか知ってるんじゃないですか!?」

「あれは不治の病だ。
 君だって知っているだろう?」

「そう……ですか……」

淡い期待はもろくも打ち砕かれた。


「でも、治す以外の方法はある。ハハッ♪」

ムッキーはシリアスなトーンで語り始める。

「この病気の問題点は"心と体の不一致"さ。
 ムッキーマウスのように振舞うことで心に負担がかかる。
 でも、それが本心だと騙しちゃえばどうかな?」

「ムッキーマウス症候群が本心ってことですか?」

「病気は治せなくても、
 病気の副作用で死ぬことはなくなるだろう。ハハッ♪」

「ありがとうございます!
 おかげでどうすべきかわかりました!!」


 ・
 ・
 ・

ネズミーランドはその日も混雑していた。

「ハハッ♪ みんなを魔法の国へ案内するよ♪」

大忙しのムッキーだが、
それを微塵も感じさせないコミカルな動きをしている。

そこに、思い悩んだ男が1人やってきた。

「あの……いいですか?」

「ハハッ♪ なにかなっ」

「実はぼく……ムッキーマウス症候群なんです」

ムッキーと男は、例のスラプッシュマウンテンの裏側の部屋へ行く。
そこで男の話を深く聞くことにした。


「……ということなんです。
 ムッキーマウスであるあなたなら、
 なにか治療方法を知っているんじゃないかと思って」

「ハハッ♪ 実は僕もかつては同じ病気だったのさ」

「ええ!? そうなんですか!!
 それじゃ、治し方を知っているんですね!
 いったいどうやって治したんですか!?」

「ううん。治せない。僕は今も治ってないよ」

「え……?」

ムッキーの黒い瞳の奥で、
ムッキーマウス症候群の男はにこりと笑った。


「ムッキーマウスになれば、
 ムッキーマウス症候群で苦しむことはないだろう? ハハッ♪
 この仕事を奪い取ってからは、すっかり楽になったよ」