聞く子の約束
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この話は、人物名を除きほとんど実話です。当時のことを蒸し返すのは、相手に対しても迷惑になると思いましたので、大学とその関係者を特定しないように地名は隠しました。
当時はキクちゃんにそれほど夢中になっていた訳ではなかったはずなので、私の彼女に対する理想像が重なってしまっている部分もあると思いますし、記憶が古くて詳細は間違っているかもしれませんが、今では経験できないユニークなエピソードが多かったと思います。
キクちゃんとはこれほどの思い出があったのに、記憶からほとんど消え去っていたことに正直驚いています。
今でもよく、「卒業できないかもしれない」という悪夢を見ることがあるのですが、キクちゃんはその夢には登場しません。完全に記憶から消し去ってしまっているようです。
実は、彼女の顔さえもはっきり思い出せないくらいで、なんとなく、いつも笑顔でこちらを興味深々で見つめてくれていた印象だけがあります。
もしタイムマシーンがあったら、あの頃のキクちゃんに会って、「ありがとう」と心から伝えたい。
彼女は初めから、私のことを特別に思っていてくれたのかも知れませんが、私はつい先日その手紙を読むまで、そんなことは有り得ないと思っていました。いえ、むしろそんな期待は虚しいだけだと。
彼女の立場で、一学生と付き合うなどということは、あってはならなかったはずです。でも、卒業さえすればという思いはあったのかも知れません。
私は大学を卒業してからスタートするはずの物語に気付かず、別のドラマにチャンネルを変えてしまっていたようなものです。
思わせ振りなことをするキクちゃんは、きっと私がすぐに手紙を取り出して読むと思ったのでしょう。
たった一回のボタンの掛け違いが、そこにありました。