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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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お前らちゃんと愛情学んできてんの?

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義務教育に「愛」が追加されてしばらくたつ。
俺は教室の中で静かに座っていた。

『愛』の教科書を開き読み上げていく。

「愛とは、人を愛おしく思う気持ちです。
 好きな相手を大事にしたいと思う気持ち、
 一緒に同じ時間を過ごしたいという気持ちなんです」

次のページを開く。

「動物にも愛情はありますが、形にはできません。
 人間だけが愛情というものを明確に言葉にして、
 それを大切にすることができる生物なんです」

さらに次のページへ。

「相手の気持ちを思い、自分の気持ちを伝え、
 思いやりの心をお互いに共有させることが愛で……」

すると、一人の手が上がる。


「不純異性交遊とは何がちがうんですか?」


クラスでも一番頭がいい子が反論した。

不純異性交遊とか難しい言葉を出してくるあたり、
確実に俺をおとしめにかかっているんだろう。

「全然ちがいます」

「どんな風に?」


「不純異性交遊には愛がないからです。
 欲望のままに結ばれるのは獣と同じです」

「それだって愛の形じゃないんですか」


「まったく違います。
 いいですか、料理をイメージしてください。
 おいしい料理を食べるとしたら、あなたはどうしますか?」

「そりゃ一流料理店へ行くけど」

「そうじゃないんです」

俺はさらに熱を込めて話す。


「一緒に食材を買って、失敗しながらも一緒に料理を作り、
 そして味わう。これがおいしい料理です。
 単にレトルト食品や誰かに提供してもらった料理では
 そこに愛情が入っていないんですよ」


「つまり……不純異性交遊はレトルトで
 本当の愛情はそうじゃないってこと?」

「そうです。
 愛情とは結果に宿るものじゃないんです。
 結果に至るまでの過程にまぎれているものなんです」

クラスから拍手が巻き起こる。
さながらアカデミー愛情賞でも授与されたような
スタンディングオベーションに包まれた。

「ありがとう、みんなありがとう!」








そして、教室の隅に座っていた先生が立ち上がる。

「浮気して愛情義務教育やり直しにさえなってなければ、
 もうちょっと愛情の説得力があったかもしれないな」

10代の子供たちが学ぶ教室の中で、
顔を真っ赤にした40代の浮気男の生徒は席に着いた。