お前らちゃんと愛情学んできてんの?
俺は教室の中で静かに座っていた。
『愛』の教科書を開き読み上げていく。
「愛とは、人を愛おしく思う気持ちです。
好きな相手を大事にしたいと思う気持ち、
一緒に同じ時間を過ごしたいという気持ちなんです」
次のページを開く。
「動物にも愛情はありますが、形にはできません。
人間だけが愛情というものを明確に言葉にして、
それを大切にすることができる生物なんです」
さらに次のページへ。
「相手の気持ちを思い、自分の気持ちを伝え、
思いやりの心をお互いに共有させることが愛で……」
すると、一人の手が上がる。
「不純異性交遊とは何がちがうんですか?」
クラスでも一番頭がいい子が反論した。
不純異性交遊とか難しい言葉を出してくるあたり、
確実に俺をおとしめにかかっているんだろう。
「全然ちがいます」
「どんな風に?」
「不純異性交遊には愛がないからです。
欲望のままに結ばれるのは獣と同じです」
「それだって愛の形じゃないんですか」
「まったく違います。
いいですか、料理をイメージしてください。
おいしい料理を食べるとしたら、あなたはどうしますか?」
「そりゃ一流料理店へ行くけど」
「そうじゃないんです」
俺はさらに熱を込めて話す。
「一緒に食材を買って、失敗しながらも一緒に料理を作り、
そして味わう。これがおいしい料理です。
単にレトルト食品や誰かに提供してもらった料理では
そこに愛情が入っていないんですよ」
「つまり……不純異性交遊はレトルトで
本当の愛情はそうじゃないってこと?」
「そうです。
愛情とは結果に宿るものじゃないんです。
結果に至るまでの過程にまぎれているものなんです」
クラスから拍手が巻き起こる。
さながらアカデミー愛情賞でも授与されたような
スタンディングオベーションに包まれた。
「ありがとう、みんなありがとう!」
そして、教室の隅に座っていた先生が立ち上がる。
「浮気して愛情義務教育やり直しにさえなってなければ、
もうちょっと愛情の説得力があったかもしれないな」
10代の子供たちが学ぶ教室の中で、
顔を真っ赤にした40代の浮気男の生徒は席に着いた。
作品名:お前らちゃんと愛情学んできてんの? 作家名:かなりえずき