死神、ただいま経営難
「売れないなぁ」
「売れないですね」
「もうダメかもしれない」
企画会議室に集められた死神たちは、
売れ行き不振の『死』について嘆いていた。
「なんでも、死神社長の話では
このまま死が売れなければ死神はなくなるとのことだ」
「それは困る!
ちょうど子供が生まれたばかりなのに!」
「私だっていやよ!
この歳で死神辞めたら、ほかにどこへ行けばいいの!」
「ねぇ、みんな、テレビでお葬式やってるよーー。
有名な小説家がなくなったんだってー」
「「「 お前は議論に参加しろっ 」」」
マイペースな死神を骨の掌でひっぱたく。
それでも問題はなにも変わらなかった。
「……とにかく、死を売るしかないな。
そのためにも死が売れなくなった原因を突き止めないと」
「昔は"お国のため"とかいって大ヒットしていたのにな」
「そんなノリは流行らないのよ。
もっとこう若い人の流行に合わせた死を売らないと」
「若い人の流行って?」
「え、えーーと……」
「スマホひとつで簡単に死ねるとかかなーー」
「「「 お前は黙ってろっ 」」」
再び死神全員の平手打ちが、骨身にしたたか響いた。
議論に参加しろと言っておきながら、
とんちんかんなことを言うとツッコミが入る。
死神の黒装束もあるが、死神界がブラック企業と言われるゆえんだ。
「今の現代は娯楽も充実しているし
価値観だって昔のような感じじゃない。
それにあわせて、俺たちで提供する死もかえないとな」
「思いつきました! "安らかな死" とかどうでしょう!」
「それはいいわ!
せわしない現代社会の荒波にもまれているから、
死くらいは安らかな物を求めるはず! 大ヒットね!」
いざ、死神たちは新商品『安らかな死』を提供した。
・
・
・
「ダメね……」
「言うな」
「こんなにも売れないなんて」
「言うな」
「大失敗だったねーーあはははは」
「言うなぁぁぁぁ!!!」
結果は大失敗だった。
死神界を立て直すどころか、
ピザの斜塔レベルまで傾ける結果に終わった。
「やっぱり、現代には安らかな死なんて売れないんだよ。
情報化社会だから、新しいものを求めるはず。
もっとこう、ぱーーっと興味を引くような死を提供しよう」
「興味を引くような……難しいね」
「たとえば、体の内側から爆発するとか
一気に空に浮き上がって死ぬとかはどうかな!?」
「「 おお、新しい! 斬新だ! 」」
「新しいもの好きの現代人にこれならヒットするはずだ!
ようし、さっそく新しい"死"を提供するDEATH!!」
死神たちの新商品『劇的な死』は、
彼らのありあまる自信とともに劇的に提供された。
が、
結果はむごたらしいほど凄惨な結果に終わった。
傾いていた死神界は、
ほぼ地面平行スレスレになるほどまで落ちぶれた。
死神界は現実世界に負けるとも劣らないほどの
邪悪で救いのない絶望感に包まれていた。
「げ、現代人わからない……」
「安らかな死のように、昔ながらの定番は売れないし……。
かといって、斬新な『劇的な死』も求めないなんて……」
「もしかして、今の人間界って……全員宇宙人なんじゃないか。
実は人間はすでに絶滅して、宇宙人にすり替わっていたとか……」
死神の口からトンデモ理論がこぼれるほどの状況で、
いつもひっぱたかれてばかりの死神がしゃれこうべを上げた。
「ぼくにアイデアがあるよーー」
その後に提供された"死"は空前の大ヒット。
死神界はすっかり死亡者であふれかえり、
かつての盛り上がりを取り戻していた。
「いやぁーー大ヒットじゃないか!
前からお前の才能は評価していたんだよ!」
「あなたならやれると思っていたわ!」
「これが現代人の求めている新しい死の形だったんだな!」
死神界隈でもこの"死"は大いに話題になった。
とはいえ、やっぱり死神にはどうしてこの"死"が売れるのか
イマイチ魅力はわからないままだった。
「うーーん、でも不思議だよな。
死がSNSで拡散されるってだけで死がこんなにも売れるなんて」
新商品『有名になれる死』はその日もこぞって買いあさっていた。
そして、死んだ自分のSNSのページには
大量の「いいね」と「リツイート」が重ねられ、
死んだ人たちはみるみる増えるその数字を見て満足そうな顔をしていた。
作品名:死神、ただいま経営難 作家名:かなりえずき