敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
100機で1機を34回
百機あまりの〈バラノドン〉は、〈タイガー〉の一機を葬った後、いったんバラバラに散開してから一斉に上昇に転じた。
反重力装置によって機の重みを極大にまで〈軽く〉しての全速上昇だ。いかにステルス機と言えども、今は〈ヤマト〉の戦闘機隊のレーダーにその姿は捉えられているはずだった。
が、それでも構わない。やつらに何ができるものか――パイロットの各々(おのおの)は、皆そう考えていた。
地球人の戦闘機は、対空砲火を避けるためにこの星の空では高度を上げられない。それに対して味方に撃たれる心配をしなくていいこちらは自由に高空へと昇っていける――それがこの戦闘におけるガミラス側の強みだった。
ゆえにこの有利を生かさぬ手はなかった。地球の機が追ってこれない高空へ逃げ、そこで標的を見定めてから急降下で襲うのだ。
彼らは『決して地球の敵と一対一でやり合うな』と言う指示を受けていた。機の性能は絶対的に地球の方が上であり、特にあの〈タイガー〉と呼ばれる型はその性能もさることながら、乗る者達は凄腕だ。まともにやってこちらが勝てる敵ではない。
だから全機で固まって行け。狙うのは編隊のいちばん端にいるやつだ。急降下で百機一斉に襲いかかれば、敵がどんなに強かろうと墜としてやれぬわけがない。
一機殺ったらすかさず上昇。次の獲物を見定めて、また全機で襲うのだ。
それがこの会戦で彼らが選んだ戦法だった。〈ヤマト〉に積まれた戦闘機はしょせんたかだか三十数機。対してこちらが残せる数もせいぜい百機。
三対一の戦いになるのは、元より予想されたことだ。三機で一機と戦っても地球に勝てるかわからぬが、百機で一機を三十数回繰り返すのであればどうだ。
地球人がビーム砲台の死角に気づき、戦闘機隊を送ってくるのもやはり前から予想していた。この戦法を実施するのはそのときだ。地球人は当然分かれて砲台を探しにかかるに違いないから、そのときいちばん端にいる者を狙って襲えばいい――。
そうしてそれを繰り返すのだ。地球人はこちらの考えにすぐに気づくことだろうが、むしろそれが望むところ。
知ったところでやつらに何がどうできる。百対一でやつらに何がどうできる。狙われたら生きる望みがないのはわかりきった話。だから、やつらは恐れ慄(おのの)くしかないのだ。『次に襲われるのは自分ではないか』と怯え、とても任務どころではなくなる。
ビーム砲台を探して飛ぶなどまったく不能! それが彼らの作戦だった。遥か高くの空まで昇ると、百の〈バラノドン〉が翼を触れ合わさんばかりにまとまって編隊を組む。まるで地球の青かった海で、ゴンズイと言う魚が作った〈玉〉のような密集陣形。
反重力戦闘機ならではの群体フォーメーションだった。重力場で結び合わされた百の機体が編隊長機の機動に合わせて一糸(いっし)乱れることなく動き、それでひとつの塊となって定めた標的に集中攻撃を仕掛けるのだ。
編隊長は次の標的の見定めにかかった。眼下に広がるゼブラ柄の景色の中で、まるで地球の蛍のような光が踊っている。
慌てふためき、てんでに右往左往している地球人の戦闘機隊だ。
いいザマだ、と〈バラノドン隊〉の隊長である彼は思った。地球人め、とくと恐怖を味わうがいい。一機たりとも逃すものか。そこで最後の一機まで永遠の氷漬けにしてくれるわ、と――。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之