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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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愛情銀行でバランスあわせて!

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初めての彼氏ができた。

「まーくん、今週の土日はどこに行こっか♪」
「ねぇまーくん。私のこと好き? 好きって言って~」
「まーくんと出会って、2日と11時間29分42秒経ったよ♪」


「うざいわッ!!」

まーくんはぴたりと私と会うのを避けてしまった。
私の頭は彼でいっぱいなのに……。

ということで、女子会で相談することに。

「……というわけでね、まーくんが全然かまってくれないの。
 私やっぱり好きじゃないのかなぁ……。
 私はこんなにもまーくんのことが好きなのに……よよよ」

「あぁー……重い重い重い……」

「重い?」

「あんた、それは重すぎるわよ。
 彼氏の愛情とあんたの愛情が釣り合ってないんだもん。
 あんたの愛情が明らかに多すぎるわ」

「そんなこと言ったって……どうすればいいのよ」

「有り余った愛情なら預けちゃえばいいんじゃない?
 彼氏の愛情とあんたの愛情の熱量の差を
 同じくらいにしておくのが長続きの秘訣よ」

「でも、あなた彼氏いたことないじゃない」
「うっさいわよ!!」

友達の説得力どうのこうのはさておいて、
確かに言われてみると自分の愛情の方が強すぎた気はした。

そこで、友達に言われた場所にある
『愛情銀行』へとやってきた。

「いらっしゃいませ。
 愛情のお預かりですか?」

なんかもう雑誌から切り出したような美人の受付さん。
きっとこの人には誰かに注ぐ愛情よりも、
寄ってたかって愛を貢ぐ男が列をなすんだろうな。

「あの、愛情を預けたいんですけど」

「わかりました。
 では、愛情をお預かりいたします。
 またご利用する際はこちらのカードをご利用ください」

愛情銀行に愛情を預けたとたん、
さっきまでピンク色のお花畑だった頭が
すっと波が引くように風景がクリアに見えてきた。

つい先ほどまではなんともなかった
『まーくんLOVE』プリントのTシャツが今は死ぬほど恥ずかしい。

「愛情……本当に預かってもらったんだ」



数日後、女友達の助言はぴたりと当たった。

まだお互いの距離感を測りかねていた彼氏は、
私が愛情を預けたことで自分の求める距離感で触れ合ってきた。

「最近のお前、なんかいいよな。
 一緒に居て楽っつーか。安心できるっつーか。
 前は、なんか必死でちょっと疲れてたんだ」

「……そうなんだ」

「どうした?」

「あ、ううん。なんでもないの」

彼氏との関係はすこぶる良好。
前は恥ずかしがっていた手をつなぐことなんかも
最近じゃ彼氏から率先してやってくるノロケっぷり。

でも、私といえば……。


「……なんでだろ。全然ときめかない」


前は愛を預けていようが何だろうが、
彼氏といればそれだけで幸せな気持ちになれたのに。

今じゃ彼氏は、陸でまとわりつくコンブのような感じになっている。
私の行動を束縛し、私の自由を制限するうっとうしい存在。

「なあ、俺たち……きっといいパートナーになれるよな」


まずーーい!
彼氏が結婚をほのめかす発言すらしはじめているーー!!


売れ残りOLの私としては願ってもないチャンス。
でも、全然この男と家庭を持つことに幸福な感情が出ない!

深刻な愛情不足!!

「あ、そうだ! 預けていた愛情を引き出そう!!」


私は愛情銀行へ、今度は前と別の目的でやって来た。

「いらっしゃいませ。
 愛情のお預かりですか?」

「いえ、引き出しです!!
 愛情がぜんっぜん足りないんです!
 これじゃ今にも彼氏と別れそうになるんです!」

私の剣幕に、いつものミスコン美人顔がわずかに引きつる。
前に私が預けていた愛情を渡すと、
冷めきっていた彼氏への愛おしさが胸いっぱいに広がる。

「ああ……ま~~くぅ~~ん♪
 わたしはいつでもOKよぉ~~!」



すっかり私にメロメロになった彼氏、
付き合いたてでノロケまくりの私。

二人の愛情熱量は完璧に一致。
シーソーでいうと、ちょうど真ん中でぴったり平行停止状態。

「ま~くん♪」
「おまえ♪」

痛すぎるペアルックも全然恥ずかしくない。
むしろ、周りの人に私たちのラブラブっぷりを見せつけて……。


あれ?
なんで私こんな男と一緒にいるんだろう。


ふいに冷静になる。
それは私の中での愛情が尽きたサイン。
最近はその感覚がどんどん短くなる。

「ちょ、ちょっとごめん!!」

「あっ、おい!!」

絡ませていた腕を振りほどき、トイレに向かうと見せかけ
愛情銀行へと猛ダッシュ。
いつもの美人が対応する。

「あの……」

「もうわかってるでしょ!
 いつものように愛情の引き出しよ、急いで!」

「お客様……その、お客様がお預けになっていた愛情ですが
 前回のご利用で底をついています」

「ええ!?」

慌てて愛情通帳を確認すると、残愛ゼロ。
無尽蔵だと思っていた付き合いたての愛情にも限界はあった。

ここから先は、熟年の夫婦みたいな関係で接しなくちゃいけない。

「どう……しよっかな」

しょうがないので、さもトイレから戻って来たように偽装して
彼氏の前に何食わぬ顔で戻る。

さっきまでのラブラブ熱量はすでに私の中にない。
あるのは、目の前の男に対する嫌悪ばかり。

「おかえり。実は話があるんだ」

「……話?」

「俺がなにも気付かないと思うか?
 男だってそこまでバカじゃないんだ」


えっ。
うそうそ……。
まさか愛情銀行のこと……。


「子供ができたんだな!!」

「……はっ?」


「俺も男だからもちろん責任は持つ。
 一生懸命働いて、君を一生幸せにする」

しまったーー。
急に離れてトイレに駆け込んだもんだから、
妊娠からくる"つわり"だとでも思いこんじゃってるーー。

でも、ここで「いや普通のトイレっすよ」とも言えないし。
待ちに待った結婚のチャンスなのに。

これ以上、結婚できない女扱いされるのは卒業したいけど……!

「かっ、考えさせて!」

私の答えは現実逃避に近いものだった。



その夜、私はかつてないほど悩んだ。

前まではあんなに結婚したくて、
彼氏に必死にモーションをかけていた私だった。
結婚に関してはいまでもしたいと思っている。

でも、もう彼氏に愛情はない。

一緒にいていても毒殺する方法を日々考えてしまいそう。
とても一緒に暮らしていけるなんて思えない。

「ああ、結婚したいのに、愛情が全然ない!
 いったいどうすればいいのよぉ!!」

そこでピンと閃いた。
私から愛情を生み出すことはできなくても、
愛情銀行にならたくさんの愛情が詰まっているはず。

それを奪うことができれば、
私は一生彼氏を愛し抜くことができるだろう。


「よし、襲おう。愛情銀行を」

私は人の少ない時間帯を調べ意を決して、愛情銀行へ乗り込んだ、
私の幸せな結婚生活のために。
二人の愛情あふれる夫婦生活のために。


バーーン。

「動かないで!! 私は愛情強盗よ!!
 このカバンにあるだけの愛情を詰めなさ……」


店内にいた唯一の客。
そして、店内にいた唯一の美人受付。

二人は人目も強盗の目もはばからず熱いキスをしていた。