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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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森のみずうみ

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セザール・フランクのバイオリン協奏曲を聴いている。
これは明け方の音楽だな、とは思うけれど深夜に聴くのもいいかなと。
あれ?もうとっくにう明け方だ。


これはいつも、朝のみずうみのほとりにたたずむ心地にさせてくれる。
湖面も空気も清浄そのもの。
あかるんだ薄青い空の色も。
そしてそこにある心も。



森はまだ童話のような影絵で、鳥もようやく起き出した頃。
なにもない。
だから満たされている。
この上もなく。
もう何もいらない。
ここに来られただけで、長の年月苦心して歩いてきた甲斐があったと思う。
光は照らすためではなく、体を宙へと浮かべるためにある。
肉体はいま、生きているのだろうか?
すべて感じながら、不思議がる。
それでいながら思うのだ。
ここが終わりで、すべての始まりだと。
ここをわたしは誰よりもよく知っていると。



深い呼吸をしながら、眠れない。
起きていることにした。
今日は今日で用事があるけれど、かまやしない。
別段なげやりになっているわけではなく、清々としながらそう思うのだ。
多分、この流麗な音楽のせい。
なるようになる。
流れに身を任せていれば、物事は落ち着くところに落ち着くのだ。
悩みという悩みが解放されて、自在な感性が飛び立つ。



悩みって、なんだろう。
たぶんそこに心が、釘のように打ちつけられて動けなくなってしまっている状態なのではないかと思う。
見た目。お金。人間関係。仕事。勉強。
そしてどれにも「〇〇できない」「自分の思い通りにならない」
という下心がついている。
打ちつけられているのなら、そのまま放っておくのがいいんじゃないかと思う。
自分の例でいえば、顔のしわと体型、かっとなりやすい上にくよくよしやすい性質が悩み。
色々してはいるけれど、そうすることで「解決」ではないものの「続けていく勇気」自体を得ているような気がする。
そこから希望をもらい、考える機会をもらい、静かに、あるいは何かに集中していて忘れていられる時間ももらっている。
ならばこれをやすやすと手放すのはもったいないのかもしれない。



もし一点の曇りもない人間だったら、それ自体が悩みになるだろう。
小さな傷一つで致命傷になり、褒め言葉以外の意見を言われたら絶望するかもしれない。
そう。悩みは授かるものなのだ。自分を強くしていくために。



やがてこのみずうみのほとりに歩み着く時が来て、からっぽの心が甘い大気でいっぱいに満たされる。
波紋には答え。
完全なる、円、そして波、誕生と死と再生。


https://www.youtube.com/watch?v=-VkYFYZ1rkM
作品名:森のみずうみ 作家名:青井サイベル