「時のいたずら」 第七話
「よく解らないけど、天下統一の野望のために邪魔になったんじゃないのかな」
「僧侶がですか?」
「う~ん、信長はきっと違う宗教を信奉していたから出来たのかも知れない。そんな話を聞いたことがあるよ」
「違う宗教?邪教ですか?」
「イエズス会って言うんだったと思う。キリスト教だよ」
「キリスト教?外国の宗教なんですね?」
「そうだね。それぐらいは解るんだ」
「名前が何となくだったからです」
「勉強したね、ハハハ~」
「その僧を殺した信長という殿はどうなりましたか?」
「なんの因果か知らないけど、焼き討ちを命じた家臣の光秀に殺された」
「何と言うこと・・・因果応報なのですね」
「歴史は後から見るとそんな風に思えるけど、その時はそんなこと考えないと思うよ。目の前のことで精いっぱいだからね。単純に目的達成のため邪魔者は排除したということだよ」
「乙巳の変(いっしのへん=645年中臣鎌足と中大兄皇子が時の実権者蘇我入鹿を殺して政権を奪った=大化の改新)や壬申の乱(じんしんのらん=672年兄である亡き天智天皇の息子大友皇子と覇権を争った大海人皇子が起こした争い)と同じことが繰り返されたということですね」
「下剋上って言うんだ。下が上を破ってその地位に就く。戦乱の世は長く続いたけど、それも400年ほど前に終了して日本は平和な時代に入ってゆくんだよ」
「では今の平穏さは400年も続いているんですね」
「まさか!そんなことは無いだろう。人は喉元過ぎたら熱さを忘れるから、また歴史は繰り返す。刀を持った武士階級を刀が持てない郷士や下級武士たちが外国の力を借りて時の政権を天皇に返す逆転劇が起こったんだ。150年ほど前にね」
「難しいお話ですね。藤には理解できませんが、それは日本にとって良い事だったのでしょうか?」
「良い事だったと教えられている。藤が知っている古事記や日本書紀だって真実から目を反らしている部分もあるだろう?それも含めてその後の世界が庶民にとって暮らしやすいものに変わっていたら、良いことだし、そうじゃなければ悪い事なんだと思う」
「では今が良い時代だと感じられれば、その逆転劇は良いとされているのですね」
「そう言うことだよ。さて、本堂に着いた。お参りをして実家へと向かおう」
藤にはそれほど変わりが無いように感じられた本堂ではあったが、そこに居る僧侶は少し雰囲気が違うと感じられた。
それは顔立ちだろうか、体つき何だろうか。
作品名:「時のいたずら」 第七話 作家名:てっしゅう