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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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AVで絶対やっちゃいけないこと

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「ああ~気持ちい~」

「カットカット!! なんだそのガラガラ声は!」

監督からカットがかかるとAV女優はむすっと顔をしかめた。

「え、今のどこがダメなんですか」

「声だよ、声! なんかこう……もっといい声出せないの?
 男の性欲を揺さぶるようなエロい声を!」

「生まれつきこの声なんですもん」

「なんとか変えられない?」
「無理ですよ!」

女優は生まれつきハスキーな声だった。
同性にはウケがいいものの、色気という観点からは不利。

「あ、そうだ! 声優をつけよう!!」

「え?」

その後、やってきたのは、アイドルのような高い声の女だった。
でも、スタイルも顔も完全にAV女優の方が優れている。

「はじめまして、AV声優です。
 あなたの声を担当させてもらいます♪」

「ど、どうも……」

監督は声優の声を聞いて満足そうにうなづいた。

「うんうん! いいね、これはいいよ!
 AVの映像は女優さんに頑張ってもらって、
 色っぽい声はあとで声優さんに収録してもらえば完璧だ!」

再度撮影が再開されると、
「気持ちい」なんて演技をする必要もなくなり、
収録はかつてないほど楽に終わった。

「はい、映像はできたよ。
 それじゃ声優ちゃんよろしくね」

「はーーい、監督。おまかせ下さい♪」

AV声優が声を乗せていく。
まるで動物のドキュメンタリーのようにそっけない映像が、
派手な声というエフェクトが加えられ一気に魅力的になった。

「素晴らしいよ! これなら間違いなくヒットだ!」

「本当ですか……?」
「はい、私もそう思いますぅ♪」

AV女優は半信半疑で、AV声優はノリノリだった。


出来上がったAVが発売されると、飛ぶように売れた。
あまりに売れたために映画の製作すら決まるほど。

続編の製作もばんばん決まり、
シリーズを重ねれば重ねるほどAV女優の中で、ある想いが大きくなっていった。

「ねぇ、AV声優。ちょっと話があるんだけど」

「なになにー? 次の作品のこと?」

「違うわ、給料の分配について。
 今はお互いに50%ずつだけど、それっておかしくない?
 私は体を張っているのに、あなたは声だけじゃない。
 私の方が多く分配されなくちゃ割に合わないわ」

ごくごく当たり前のことを言ったつもりだったが、
声優の逆鱗に触れたようで、AV声優の顔つきが変わる。

「なに!? 声だけだから楽してると思ってるの!?
 こっちだって毎日ノドのケアしてるのよ!
 それに、声の演技だって専門職なんだからね!
 素人が声を出せばいいってもんじゃないの!」

「でも、実際に体を晒してないじゃない!」

「あんたは体を売りにするしかできないだけでしょ!
 あたしは声を売りにするしかできないの!
 あたしの声がなくちゃ売れない三下AV女優のくせに!」

「はぁ!? なんであんたにそこまで言われなくちゃいけないの!?」

ケンカはお互いに譲れなくなり、
大人気となった一人のAVアイドルは完全に分裂した。

その後、代わりとなるAV声優を雇って声を当ててみたものの
前ほどの人気は出なかった。

「AV女優ちゃん、声には合う合わないがあるんだよ。
 君の体に対して、ぴったり合うのがあの子の声なんだ」

「…………」

どこかでAVのヒットは自分の働きあってこそだと思いあがっていた。
でも、お互いに協力していたからこそ完成していたんだ。

そのことを知ったAV女優は、声優のもとを訪れた。

AV声優はぼろぼろのビルで収録を行っていた。

「ずいぶん古いところね。
 あなたはAV声優でヒットしたんだし
 こんな小さい会社の仕事なんて受けなくても……」

「声優は狭い業界なの。
 売れてる人は上層のごくごく一部。
 小さな仕事をやらなくちゃ生活もできないの」

AV女優は用意していた言葉を口にすることに。

「あのっ……ごめんなさい。
 私、あなたの仕事を軽く見ていた。
 ほかの人を雇ってみてわかったわ、あなたが必要なの」

AV声優もその言葉で本心を引きずり出され
無意識のうちに声に出していた。

「私も、自分の声があなたとぴったりだと思っていた。
 ほかの人、ほかのキャラでやっていても
 あなたの顔がチラつくの」

「それじゃあ……」

「ええ、また一緒に始めましょう。
 ううん。今度はもっといいものを作りましょう」

AV声優とAV女優は仲直りし、お互いに握手を交わした。
そして、今までで最高傑作のAVを作る意思を固めた。

「それでね、アイデアがあるの」

AV声優は自分のアイデアを話し、
それは公開予定のAV映画へと組み込まれた。


「いよいよ今日、映画が公開されるのね」

「大丈夫。私もこれまでで一番最高の演技ができたと思うわ。
 それにあなたの演技も完璧だったじゃない」

完成したAV映画はこれまでで最大の予算を使って作られた。
二人の演技も過去類を見ないほどの完成度。

そこへさらに、豪華声優も起用している。

「「 大ヒット間違いなしね!! 」」

二人はAV映画の完成披露試写会へと向かった。




その後、映画はあまりの不人気にすぐさま終了となった。
AV女優もAV声優も納得できなかった。

「どうして!? あんなに完璧だったのに!
 それに有名な声優も使ったのよ!」

たまらずAV監督に映画を見せると、
その答えは開始3秒で明らかになった。


『さぁ、ピストン運動を始めた僕の腰!
 いやぁ、いいですね! とっても気持ちいです!
 この先、どこまで絶頂という名の果てしない道を登れるのか
 AV男優として楽しみであります!
 おっとここで取り出したのは電動のおもちゃで……』


「有名声優って……AV男優につけちゃったの!?」

良い声でしゃべりすぎるAV男優のおかげで
見る人すべてから性的興奮を根こそぎ奪っていった。