Consolation
けだるい病のような絶望と、若い頃からあるショックをともなうチック、
自分が不必要だという確認、雪のように降る悲しみ。
その中にいた。
だんなさんは眠っていた。
その眠りの寂しさに耐えきれない。
ほんとうのことだ。
こんな歳になってもまだ母性のぬくもりを他者に求める。
だんなさんが起きてからは、反対にぼうっと毛布にくるまっていた。
何も見たくない。聞きたくない。喋りたくない。感じたくない。
目をつぶる。目を閉じてもいられない。
すなおに言ってみた。
「ペロル。おなかぽんぽんして」
だんなさんはそうしてくれた。幼い頃のぼやけた記憶。
深い安心。
それを請け負ってくれるほほえみ。
「ペロルわたしかなしい。どうしたらいいだろう」
「お散歩がてら買い物に行って、外に出たら違ってくるかもしれないよ」
「わかった、支度する」
ゆっくり支度をすませて、外へ出た。
外は祝福のような一日をすぐに差し出してくれた。
いまが盛りの花、その香り、青葉、小さな生き物たちの嬉しさ。
肌にあたるこのうえなく柔らかい日差しのまるみ。
そよ風。
一年の中で一番美しい季節、その中にあるさらに貴重な気前のいい一日。
入院していた頃、こんな日を窓の外に眺めて悲しかった。
早く外に出たい、歩きたい。
それができたときのなんとも素敵な気分。
病棟慣れしたぼうっとした頭が、ぬるま湯にひたされていく。
世界は新鮮で、何もかもが美しい。
手を引いてくれるだんなさんの手は、もうこれは介助の一環といえるのかもしれない。
かなしみは陽に溶け流された。
少しずつ口もきけるようになった。
だんだん笑えるようになった。
腫れ物に触るようなお互いの顔にしんから笑い合えるようになって、
夕飯にはアスパラを茹でた。
うまい水の味。5月の味。
ありがとうね。一生恩にきるよ。
作品名:Consolation 作家名:青井サイベル