ぴたっと金属にくっついて
ベッドの骨組みに吸い付くようになっていた。
「な、なんだこれ!? どうなってる!?」
それから約半日使い、パイプベッドの裏からの脱出に成功。
得られた結論はひとつだった。
『鉄に吸い付く体になってしまっていた』
金属があると、その方向にぎゅんと吸い付いてしまう。
ベッドからはい出せても、次は扉の取っ手にくっついたり
洗面所のシンクにくっついたりしてしまう。
「た、助けてくれぇーー!」
これではとても日常生活が送れない。
金属があると磁石のように吸い付いてしまうのだ。
「こ、これしかない……」
悩んだ末に、普段通りの日常生活を送る方法を考えた。
「なにあの人……」
「見ちゃだめよ。変な人だから」
「体中にアルミホイルまいてる……」
街の人の視線が痛い。
でも、これ以外に方法はない。
家にあったアルミホイルを体中に巻き付けて
ミイラ男ならぬアルミ男が完成した。
これなら町のいたるところにある金属に吸い付けられずに
普通の日常生活を送ることができる。
でも、俺はこれまでどうやって生活していたのか
不思議と思い出すことはできない。
「にゃあ~~……」
どこからか悲し気な猫の鳴き声が聞こえる。
アルミホイルをガサガサ鳴らしながら、
声の元を必死に探すも見つからない。
「にゃあ~~……」
「上からか?」
見上げると、建設中の家の鉄骨に猫がいた。
なんであんな場所に……降りれなくなったんだろう。
とはいえ、足場もないので上ることはできない。
声に気付いたほかの人もおろおろするばかり。
「いや待てよ。俺なら……鉄にくっつける俺なら!」
足の裏のあるホイルをはがす。
待ってましたとばかりに、足の裏が鉄骨へと吸い付いた。
地球に対して体を平行にしたまま、鉄骨を歩いて登っていく。
猫を抱き上げると静かに地面まで連れて行ってあげた。
周囲からは拍手が巻き起こり、見ていた大工の棟梁も感心した。
「お前さん、すげぇじゃねえか。
どうだい。ここで働いてみねぇか」
「はい! よろしくお願いします!」
大工となってからは人生は順風満帆。
鉄に吸い付くおかげでどんな場所でも
重力を無視して鉄骨を壁登りして運べる。
「ああ、これが天職にちがいない!」
仕事も充実して、恋人もできた。
このままやがて結婚して幸せに過ごすんだろう。
多少人とは違う部分があっても、
幸せに暮らしていけるんだと最近よく思うようになった。
「おい、あれなんだ?」
そんなハッピーエンドを破壊するかのように
空には丸いUFOが現れた。
現代兵器でも近づくことのできない難攻不落の空中要塞。
建設中のビルの鉄骨の上からそれを見て、
はっきりと世界の終わりを感じた。
UFOは街を破壊するでもなく
何かを探すようにうろうろと空を飛びまわっている。
高度が下がったとき、ぐぐぐっと体が引っ張られるのを感じた。
「まさか、あのUFOは金属製なのか……!」
世界を救えるのは俺しかいない。
たったひとりでUFOに乗り込むしかない。
「止めて! あなたが行くことなんてないわ!」
彼女は涙ながらに引き留める。
「……いや、ダメだ。俺が行かないとダメなんだ!」
俺は自分の体を覆っていたアルミホイルをすべてはがす。
体が空に強く引っ張られるのを感じるや、空に舞い上がる。
UFOの外壁に吸い付くと、なだらかな外側を歩いて入口を探す。
「みんな、俺が世界を救ってやるからな……!」
工事現場から持ってきた鉄パイプを構えつつ
宇宙船の底にある入口に入っていく。
宇宙船の操舵室にやってくると、思わず鉄パイプを取り落とした。
「なんで……人間が乗っているんだ……」
UFOを操縦していたのは、宇宙人なんかじゃなかった。
どいつもこいつも俺と同じ人間だった。
「記憶がないようだね。
私たちは地球から拉致されて、
第二の地球へと連れ去られた君を助けに来たんだ。
奴らは地球の文明をまるまるコピーしたんだ」
「えっ」
「敵の宇宙船を奪取するのに時間がかかってね。
さあ、一緒に地球へ帰ろう」
宇宙船のモニター越しに地表を見てみると、
UFOを見上げる宇宙人たちが並んでいた。
俺の目には普通の人間に見えていたのに。
「ところで、君は普通の人間だよね?
変な手術はされていないよな?
少しでも人間にはない部分があると
宇宙入国審査で地球に入れなくなるんだ」
俺は脂汗をだらだら流しながら答えた。
「そそそそ、そんなの、あるわけないじゃないですか……」
作品名:ぴたっと金属にくっついて 作家名:かなりえずき