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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ガラスへだてて人間動物園

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「人間動物園、大人ひとりでお願いします」
「はい、どうぞーー」

噂は本当で人間動物園なるものが近くにあった。
中を通されると、狭い部屋にガラスの窓がひとつ。

「ずいぶん狭いんですね。
 これじゃ六畳一間の俺の部屋のが大きいくらいだ」

「園内をぐるぐる歩き回るのは大変でしょう?
 そこで、この人間動物園では人間がかわるがわる出てくるんです」

「なるほど。動物じゃないもんな。
 人間だからそういう調整ができるのか」

「それではお楽しみください」

係員が部屋から出ていくと、
部屋にある電光掲示板に文字が流れた。


<意識高い系の人間>


すると、ガラスの向こうに人間が現れた。


「さて、この後1時間後にセミナーに参加しなくちゃな。
 やれやれ。自分磨きが忙しくて休み暇がないぜ」

ガラス越しに向こうの声は聞こえても、
この部屋からの声は聞こえない。

係員からはガラスの向こうからこちらは見えないと聞いてる。

意識高い系の人間は手帳をチェックし、携帯をチェックし
忙しいアピールを散々した後、自己啓発本を開きながら去っていった。

「いるなーーああいう人。
 さすが人間動物園。いろんな人が見れるんだな」

部屋の内側にある電光掲示板の文字が入れ替わる。


<ナルシスト人間>


「おっ。今度はどんな人なんだろう」

てっきりホストみたいな人が来るかと思ったら、
ぱっつぱつのタンクトップを来た男がガラスの向こうにやってきた。

じっとガラスを見つめるから俺もぎょっとしたが、
どうやらガラスに映る自分の胸筋を眺めているようだ。

「うんうん。だいぶ首回りに筋肉がついてきているな。
 今度は大腿筋を鍛えつつ6パックの溝を深めよう。
 ああ、すみません。ちょっと触ってもらえますか? 固いでしょう?」

「う、うわぁーー……」

ナルシストってそういう意味か。

筋肉で鍛え上げた自分に酔いしれるならまだしも、
それを誰かに認めてもらいたい欲が強すぎて
タンクトップ着たり筋肉を触らせたり……。

さすがだ、人間動物園。

ふたたび電光掲示板が変更され、ナルシストが去っていく。


<だらだら現状維持人間>


「……なんだこれ?」

パッと見よくわからない表示。
ガラスの向こうにやって来たのは、見るからに普通の人だった。

隣には、最初の意識高い系の人間がくっついている。

「今この時間が自分を高めるのにベストなんだ!
 さあ一緒にセミナーに参加して自己啓発しよう!」

「でも、僕忙しいし……」

「忙しい? 何が忙しいんだ?」

「そういうのガラじゃないし。
 僕は今のままの生活でいいよ。死なない程度に金を稼いでいければ」

「そんなのは充実した人生といえるのか!?」

「いいんだよ。努力しても結果はすぐに出ないし。
 無駄な努力をして労力と時間を使うくらいなら
 毎日ふつうに過ごしている方が建設的だ」

その後も二人の押し問答は漫才のように続けられた。

何も努力せずに何も生み出さずに
挑戦を恐れて現状維持のシェルターに隠れ続ける。

なるほど、だらだら現状維持人間とはこういうものなのか。



「楽しんでいただけましたか?」


係員が部屋に入ってきたところで、
俺の園内滞在時間が過ぎたことを知った。

「ええ、楽しかったです。
 でもどうして人間動物園を作ったんですか?」

「反面教師ですよ。
 なりたくない人間の姿を見せることで、
 自分を見つめ直すきっかけになると思ったので」

「なるほど。まあ、でも俺にはあまり参考にはなりませんでした。
 彼らと俺とじゃ全然違いますから」

「そうですか。
 さあ、次のお客様も待っているので」

係員に促されて外に出ると、
入れ違いに見るからにワルぶっている人が部屋に入った。

「ありがとうございました。
 またのご来園をお待ちしております」



園を出ると、道を間違えてしまったのか迷ってしまった。

「出口だと思ったんだけどなぁ」

園の外をぐるぐる回っていたときだった。
俺が人間動物園入った時は別の入り口が見えた。

「こんなところに、もう一つ入口があったのか。
 ああ、そうだ。中に入れば帰り道がわかるかも」

再び人間動物園に入ると、ガラスに入っている男が見えた。
ちょうどすれ違ったばかりのワルい男だった。

「あの部屋……俺が入っていた部屋じゃないか。
 向こうからガラスは見えないって言っていたのに!」

思わずかけよる。
間違いない。俺もさっきまでこの部屋にいた。

これじゃまるで……。

「ねぇ、まーくん。見てみて。
 <天才気取りの勘違い人間>ってあるよーー」

「そうには見えねぇな」

近くのカップルがガラスの外にあるネームプレートを指さした。
すると、新しいプレートを持って係員がやってきた。

「いやぁ、すみません。
 プレートを前にいた人間のままにしていたんです。
 うっかりしていました」

係員はネームプレートを外して、
新しく<ワルぶってる寂しがり屋>に乗せ換えた。


「まーくん、わたし、前にこの部屋にいた
 <天才気取りの勘違い人間>見たかった~~」