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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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頭のおかしい街で新人研修!

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「着いたぞ。ここが『頭のおかしい街』だ」
「ものすごい名前ですね……」

街の周囲はフェンスで囲まれて、隔離されてるみたいだ。

「ここにいる人たちは全員頭がおかしい。
 全員だ。どいつもこいつも頭がおかしいんだ」

「そうなんですか。
 でも、ここで1週間も過ごせだなんて
 うちの会社の新人研修っていつもこうなんですか?」

「まあな。『世界標準機構』に勤めるとなると、
 常に正しく物を見ることが求められる。
 これは避けて通れない研修なんだよ」

頭がおかしいというだけあって、
街の人たちが話している内容はどれもとんちんかん。

「ああ、空が! 空が落ちてくる!!」
「地球の底にはもう一つの地球があるんだ!」
「人形は自分でしゃべることができる! 見たんだ!」

なんかもう信じる信じない以前にばかばかしい。

「いいか、彼らの言葉を信じるなよ。
 奴らは頭がおかしい。そのことを忘れてはいけない」

「ははは。大丈夫ですよ。
 さすがに信じません。世界滅亡の大予言でもあるまいし。
 それに先輩もいるじゃないですか」

「そうか……そうだな」

安心してその日は眠りについた。

夜に先輩がどこか出かけるのを見た気がするが、
特に気にせずにぐっすりと眠れた。

翌日の朝から先輩の豹変は始まった。

「指には神様が宿っているんだ!
 常にその指先で我らを見守ってくださっている!!」

先輩は自分の手を見ながら、何度も頭を下げている。
完全に頭がおかしい。

「先輩、どうしたんですか!?
 いったい何があったんです!?」

「おお、後輩よ! お前も気付いたのか!
 さあ一緒に神様にお祈りをささげよう! アーメン!」

「そんなことあるわけないじゃないですか!
 早くまともになってください! 誰かに影響されたんですか!」

「貴様! 俺が狂っているといいたいのか!!
 俺は知っているんだ! 本当に指先に神はいる!」

先輩にはどんな言葉をかけても無駄だった。
おそらく、この街の"おかしさ"に毒されたに違いない。

自分だけは正常を保たなければ。

 ・
 ・
 ・

それから、6日が過ぎた。

俺はまだ自分の正気を保っている。
6日もこんな街で過ごしていると、いろいろわかってくる。

『頭のおかしい街』の人々の話すことは全部おかしなことばかり。

でも、聞けば聞くほど理屈が通っていることに驚く。
どこにも矛盾や論理崩壊はない。

きっと、先輩もその「おかしな正しさ」のせいで狂ったんだ。

「俺は正常だ。おかしくなってたまるか」

街に来てから3日目でほかの人の交流を絶ち、
完全に自分だけの世界に閉じこもった。

それだけ、この街に蔓延する「おかしさ」には
人を狂わせる魔力がある。

「あと1日……あと1日こうしていれば……」

ふと見ると、1体の人形が部屋に置いてあった。

『やあ、ひとりで何をしてるんだい?』

「に、人形がしゃべった!?」

『ああ、君たちの常識では人形はしゃべらないものなのか。
 でも違うよ。人形はもともと人の形を模したもの。
 そこに魂が入り込んで話せるようになっても不思議じゃない』

流ちょうに話す人形を見て、
最初に街へ入って来たときに聞こえた人の言葉を思い出した。


――人形は自分でしゃべることができる! 見たんだ!


「あれは本当だったのか……!」

自分の幻覚かもしれないと、何度も人形を問い詰めた。
けれど、いくら尋問したところで人形の主張の正しさを強化するだけだった。

本当に運が悪い。
最終日にして、頭がおかしくない人間がいることを知ってしまった。

『それじゃあ、僕は帰るね。話せて楽しかったよ』

「待ってくれ! 証拠にムービーを取らせてくれないか!?」

『君は知らない人から、
 "珍しい顔をしているから写真撮らせて"
 と言われて、快く答えるのかい?』

「うっ……そうだよな。失礼だった……」

人形が去ると、もう最終日も残りわずか。
にもかかわらず、この世界の真実を知ってしまった。

「この街には少なくとも1人、真実を話している人間がいたんだ。
 ……いや、本当はもっといるかもしれない。
 単に俺がこの目で見てないだけなのかもしれない」

もしかしたら、地球の底に2つめの地球があるかもしれない。
もしかしらた、指先に神様がいるのかもしれない。

俺が見たことないというだけで、
それらはすべて真実なのかもしれない……。



翌日、社長が迎えにやってきた。

「やあ、新人君。新人研修お疲れさま。
 この『頭のおかしい街』で過ごしていても、
 どうやら君は正気を保てているようだ」

「ええ、俺は正気です!
 ですが、この街には俺のほかにも正気の人がいます」

「なんだって?」

「人形をしゃべるといった人……あの人は真実です。
 俺もこの目で人形がしゃべっているのを見ました。
 いや、それだけじゃない。
 きっとこの街には調べてみれば本当にまともな人がいると思います」

社長の目は、俺が最初にこの街の人を見たときのような
心から「頭おかしいんじゃないの」という憐れみの目になった。

「社長! 本当なんです!
 証拠は残ってませんが、本当に人形がしゃべったんです!」

「落ち着きたまえ。本当は黙っているつもりだったが……」

社長は手招きすると、おかしくなっていたはずの先輩が現れた。

「先輩……!?
 だっておかしくなったはずじゃ……」

「騙して悪かったな。
 実はおかしくなんてなっていないんだ」

「新人には毎回黙っていたが、この街はすべてわが社で運営している。
 ここにいる人はすべてスタッフなんだ。
 信じようがないウソを新人のためにつきづけているんだ」

「そう。だから、最初に言ったじゃないか。
 『彼らの言葉を信じるな』と」

「それじゃ俺がみた人形は……」

「そんな仕掛けはない。
 彼らのしゃべっていたことは、すべてウソだ。
 お前を惑わすために、こちらで用意したウソさ」

「『世界標準機構』は常に世界の"正しさ"を決める会社。
 君にも、"正しさ"をブレさせることのないよう訓練したんだ」

ああ、そうなんだ。
全部ウソだったんだ。

脳裏にはありありと、人形との会話が焼き付いている。
でも、そんなのは正しくない。

きっと俺の幻覚とか夢とか妄想とかだろう。

俺の幻覚だっていう証拠もないけどそうなんだろう。


「新人君、ようこそ『世界標準機構』へ。
 ここから世界の"正しさ"を一緒に作っていこう」

俺は喜んで社長の手を取った。


最初にやった仕事は、
『神がいる』ということを世界に浸透させる仕事だった。

もちろん、これは正しい。

正しいという説明も証拠もないけれど、
世界標準機構が"正しい"としたことなので、正しいのだ。