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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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頑張れなんて言わないで!

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――貴殿の今後のご活躍と発展をお祈り申し上げます。

「くそ!! 心にも思ってないことを!!」

これで50社目の不採用通知。
いったい、俺のどこがダメだっていうんだ。

友達に連絡しても、親に相談しても
カウンセラーに聞いても、セミナーに参加しても

『頑張れ!』
『努力すれば結果は出る!』
『諦めずに頑張るんだ!』


「もう頑張ってるよ!!」

みんなかける言葉は同じだ。
がんばれ、がんばれ、がんばれ。

オウムのように聞かされてうんざりしている。
頑張れなんて、他人ごとだと思ってるやつが使う言葉なんだ。
本当に心から思っている人は使わない。

「俺はもうだめなんだ……」


その翌日に知らないおばさんが見えるようになった。

最初は幻覚かなにかかと思っていたけど、
俺に声をかけてくるもんだから驚いた。

「すごーーい! 50社も受けたのね! 頑張ったじゃない!」

「嫌味かよ……でも、全部落ちたんだよ。
 どうせ俺は社会不適合者なんだ」

「そんなことない。何度落とされてもまだ就活をあきらめていない。
 その強さは誰にでもあるものじゃないわ」

「……そ、そうかな」

「あなたがそう思わなくても、私はそう思うわ」

おばさんは常にほめてくれた。
どんなに俺が愚痴っても必ず褒めてくれた。

その優しい言葉に、俺は応援されることじゃなくて
誰かに認めてもらうことに飢えていたんだなと実感した。

そんなわけでおばさんの言葉もあり
ますます就職活動を頑張れるエネルギーをもらった。

「すごいわ! その履歴書、一番いい出来じゃない!」
「素敵な証明写真ね。きっといい結果が出るわ」
「うんうん。その自己PRなら間違いないわ」

「俺、頑張ってみるよ!」

そして、結果は帰ってきた。


――採用を見送らせていただきます
――採用を見送らせていただきます
――採用を見送らせていただきます
――採用を見送らせていただきます
――採用を見送らせていただきます
――採用を見送らせていただきます
  ・
  ・
  ・

人生はそう甘くなかった。
乗せられてその気になったところで、
俺自身の力が変わることではなかった。

現実は厳しい。

「ああああ!! くそっ! くそぉ!!」

不採用通知をびりびりに破いて壁を思い切り蹴る。

悔しさとやるせなさで心がぐちゃぐちゃに熱くなり、
このまま何もかも壊して死にたくなる。

「大丈夫。この経験はきっと次への糧になるわ」

おばさんがいつものように優しい言葉をかけた。
でも、それを受け止める余裕が俺にはなかった。

「もとはといえば、あんたのせいじゃないか!
 あんたがおだてて俺を乗せるから!
 その気にさせてみじめな思いさせたかったんだろ!」

「そんなことは……」

「もうどっか行けよ!!
 これ以上俺をその気にさせないでくれ!!
 どうせ何やっても俺みたいなクズはどこにも採用されないんだ!!」

自暴自棄になっての八つ当たり。
救いようのないクスの典型だ。

おばさんは寂しそうな顔になってすっと消えていった。

なんとなく感付いていたけど、
やっぱりおばさんは幽霊だった。

「ふざけやがって……くそぉ……」

ひとりきりになった部屋に、1通の手紙が届いていた。


――最終選考に進んだことをご報告いたします。
  最終面接後に貴殿の採用・不採用を決めたいと思います。


ここにきてまさかの最終選考。

見たことも聞いたこともない大舞台に、
緊張の波が一気に押し寄せてくる。

当日の最終面接にはいい感じに落ち着くとたかをくくっていたが、
むしろ面接日にピークを迎えるほど緊張しきっていた。

「弊社では、一見価値の無いようなものでも
 そこに価値を感じさせる力を重視しています。
 それを踏まえて、自己PRをどうぞ」

「あの、わわわわわたしっ、私はっ……。
 さ、さかたというものでっ……えっと、えっと……」

緊張で用意していた頭の台本はすべて吹っ飛んだ。
自分が何をしゃべっているのか。
どう呼吸すればいいのかも忘れてしまった。

「えーー……もういいですよ」

明らかに曇る面接官の表情。
俺は不採用を覚悟した。


そんなとき、面接官の後ろにおばさんが見えた。


思わず「あっ」と声を出しそうになったが、
おばさんは社員と同じバッチをつけている。
ここの社員だったのか。

「では、あなたを雇ったときのメリットを教えてください」

面接官の言葉に押されて口を開く前に、
おばさんが声をかけてくれた。

「きっとあなたはとても才能があるのよね!
 私はいつも見て来たから知ってるわ!」

その言葉に安心し用意してきた頭の原稿ではない
俺の心からの言葉を面接官に伝えた。

その後も、おばさんの褒め言葉もあって面接は順調に進み
最初の失敗はどこへやらで、最後には

「この場であなたの採用を決定します!」

と、告げられた。
後で知ったことだが、この面接官はおばさんの息子らしい。


そして、今。


「見てください! この炊飯器!
 なんと、お米を炊くだけじゃなくてテレビも見れるんですよ!!」

俺はおばさんのように、いろんなものをほめている。

「送料はすべて、ジャネパットさかたがご負担いたします!」