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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「時のいたずら」 第三話

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この女は天然か?って感じられたが、ボケているとも思えなかったし、優斗はゆっくりと今の時代のことを説明して行かないと大変なことを招きかねないと思った。

「ユニクロはこのモールの中にあるから着いておいで。あまりキョロキョロするなよ。それでなくても目立つから」

「お言葉通りにします。離れないで下さい」

「じゃあ、手を繋ごう。それがいい」

優斗は駐車場からモールに入るエスカレーター口に向かう途中でそう言うと、藤の手を握った。
驚いた様子だったが、不安を取り除いてくれる気がしたのか振り払うことはしなかった。

「やわらかくて小さい手だね。藤はとっても大人っぽい感じがするけど、まさか奥さんではないよな?」

「奥さん?」

「人妻ということ。う~ん違うか、結婚しているということ」

「結婚・・・いえ、独り身です」

「なら良かった」

「どうしてですか?」

「人の奥さんだったら返さないといけないしね。って帰り方が解らないよね」

「優斗さまは如何ですの?」

「その優斗さまって呼ぶのはやめて欲しい。今の時代は優斗さんだよ」

「優斗さん・・・そう呼ばせて頂きます。わたくしは藤と呼ばれて嬉しいです」

「おれは独身だよ。結婚の予定もない。30になったのに寂しいものだよ」

「一度もですか?」

「そうだよ。一度もだよ」

「母上様とかお父上様は如何申されておられますか?」

「父と母でいいよ。様はつけて話さないんだよ今は。両親は離れているから時々何か言って来るけどもう諦めているんじゃないのかな」

「お幾つになられても子供のことはご心配だと思います。わたくしは幼い頃父に申し付けられて式部大丞(しきぶのだいじょう)様のお屋敷に奉公いたしました。そして大丞様のご長女香子(たかこ)様のお傍にお仕えしていたのです」

「ふ~ん、よく解らないけど、その香子と言う人が紫式部なのかい?」

「晩年はそう呼ばれておりました」

「晩年ね。式部には旦那さんは居なかったのかい?」

「お傍に仕えるころにはお亡くなりになったとお聞きしていました。その悲しみから逃れるかのように源氏物語をお書きになり、お別れする寸前には第五帖「若紫」が宮中に広まり、紫式部ともてはやされておりました」

「物語のタイトルが名前の由来になったのか」

優斗はなるほどと思った。