小説が読める！投稿できる！小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ！

　かいなに擁かれて 〜あるピアニストの物語〜

〜序章〜

予約が入っていたその日の鑑定を全て終えると、魅華はぐったりした。
携帯の時刻をみると午後八時を過ぎていた。
コンビニで買ったサンドイッチを、朝早くにほんの少し、口にしただけだから何か食べなくてはと思うけれど、今何かを口にしてもすぐに吐いてしまうことは分かり切っていた。
せめてお茶でもと考えたが、すぐにその気も失せた。
詰めた鑑定を済ませた日の夜は、決まって吐き気に襲われる。
――いつものことだ。
あれからもう七年も経ったのだな、と魅華は天井を見上げた。
彼女は思う。
この仕事はやりたくても出来る仕事じゃない。けれどやりたくてやっているわけでもない。ただ、今は辞めることができないだけだ。
本来ならピアノだけで身を立てていけたのかも知れない。オンナを武器にして、その気になれば幾らでもチャンスはあった。
だけど――、言うまい。
これが――ワタシの人生だ。
今日も様々な人生を背負った人たちの話を訊いた。
そして背負いモノの全てをその人たちはここに置いて帰る。
そのモノ達の中には何日も時には数カ月もこの部屋に居憑くことがある。
今日居憑いたモノはそう易々とは去ってくれそうにないことを魅華は覚悟した。
かなり重い。
裕福とは言えないけれど、何とか生活が出来る今に至るとは思わなかった。
離婚を二度も経験した。
占い師。
世間では、マヤカシだとかインチキだとか、中には霊感商法だとか、酷い時には詐欺紛いに非難されたこともあった。だけど、自分にはほんとうに否応なしに視えてしまうのだからどうしようもないのだ。望んで得た体質なんかじゃない。何かに必要とされただけだ。
かつて近所の心ない人たちには、この家に出入りする男たちの姿を認めては、まるで淫らなことをしているかのように、有りもしないようなことを井戸端会議のネタにされたこともあった。
「ワタシの鑑定を望んで来てくれたお客さんなのに、信頼のおける友人から頼まれた人たちなのに……。ワタシは淫らなオンナなんかじゃない」軽く生きられたとしたら――どれほどラクか。
｢ワタシだって、寂しいよ。誰かとずっとずっと一緒に暖かく暮らしたい。だけど、それは望むまい。ワタシには半分の幸せがちょうどいい｣
広いこの家の中に、たった独りであることを魅華は噛みしめる。