自称ノブレス・オブリージュのリポーター
レポーターのフリをしふざけて友達にマイクを向けて聞いた。
「今の歌を聞いて、何点だと思いますか?」
「えぇーー? ところどころ音程外していたし、
正直マサミの歌って下手じゃん。
上手い人っぽく歌ってるだけだから……30点?」
カラオケボックスは水をうったように静まり返り、
気を遣うように機械の採点は「90点」を表示した。
気まずくて解散したカラオケ会のあと、
私は自分の特殊な力を自覚することになった。
「私がマイクを向けたら……みんな本音を言ってくれるんだ」
そこで、最初は母親にマイクを向けてみた。
「最近なにか隠していることは?」
「えっと、便器のタンクの中にへそくりを隠しているわ。
それとパパの浮気を知っているけど知らないふりをしている。
あと、あなたの口座からお金を抜いたわ」
母親はぺらぺらと恐ろしいことを暴露した。
私は自分の能力を確信した。
今度は友達にマイクを向けていく。
「あなたの好きな人は誰ですか?」
「友達になりたい人は?」
「できれば避けたい人は?」
「苦手な人は?」「隠していることは?」
マイクを向ければみんな答えてくれる。
みんなの本心を聞いたらあとはそれを再分配するだけ。
友達になりたい人には友達を。
好きな人を知ったら、つながりを作ってあげる。
苦手な人には距離をおく環境を作ってあげる。
そんなことをしていると、
だんだんと人から感謝されるようになっていった。
「「「 ありがとう! あなたのおかげよ! 」」」
「ううん、いいのよ。気にしないで。
私は"持っている人"だからね。
ノブレス・オブリージュってことよ」
「のぶれす……?」
「力がある人は、力のない人に使ってあげるってこと♪」
私の周りには人が集まってくる。
これもこの能力があってこそ。
みんな誰かの本心を知りたいけど、
知るためには自分が傷つく危険性がある。
私がみんなの知りたい"情報"を教えてあげることで、
誰もが幸せで最高で平和な世界になるはず。
私がみんなのために尽力してあげないとっ。
ある日、テレビを見ていたときだった。
『議員、あなたはどう思っているんですか!』
『本当は戦争で儲けたいんでしょう!?』
『国民の意思を考えているんですかっ』
テレビでは毎日マイクに囲まれて嫌そうな顔をする政治家。
帰ってくる返事はのらりくらりと、的を射ない回答ばかり。
「これよ……これだわ!
私の能力を最も生かせるのはこれしかないわっ!」
誰もが知るのを求めている情報。
それが私なら引き出すことができる。
偉い人の本心はみんなが知りたがっているはず。
これを再分配する義務が私にはあるんだから。
私は偉い人の集まる場所へ向かった。
「ダメだダメだ! 帰ってくれ!」
偉い人が集まる会議室に行ったが、すぐに追い返された。
本心を知られたくないということはそれだけの情報があるはず。
ここで「はいすみません」と帰るわけにはいかない。
外を歩いていた子供を捕まえると、会議室に行くよう話した。
「なんでぼくが?
ぼく、これから後藤くんと遊びにいくやくそくがあるのに」
「そんな約束なんてどうでもいいわ。
私はこの国や、ひいては国民が知りたい情報が得られるのよ。
そのためにはあなたの協力が必要なの」
「……でも」
「私に協力しないのは、全国民への反逆と同じよ」
子供は私の説得に応じて会議室へと忍び込むことに。
案の定、子供が紛れ込んだことで会議は中断して大騒ぎ。
騒ぎの収拾で見張りがいなくなったところを見て会議室へ突入。
まっさきに一番偉い人へマイクを向ける。
「教えてくださいッ!
あなたはこの国のことどう思ってるんですか!!」
さあ、あなたの腹にため込んでいる
とっておきの本心をさらけ出すのよっ!
「え、えーー……そうですねぇ……。
まぁ、大事にはしないとなーーって思っています」
あれ?
カスミのような手ごたえのなさに質問を変える。
「あなた達の隠していることは!?」
「はい、昨日の料亭でこっそり10円をネコババしました」
「これまでにやった一番あくどいことは!?」
「車で移動中に通行人に泥をはね上げたことがあります」
いくら聞いてもダメだった。
そもそも本心から隠し事もあくどいこともなかったんだ。
「はぁ、せっかくすべての人のために
この能力が役立てると思ったのに……。
これじゃ人の役に立つだけの情報じゃないわ……」
あまりの肩透かしな結果にマイクを取り落とす。
そのマイクを会議室に忍び込ませた子供が拾って
リポーターのマネをしてマイクを向ける。
「あなたの本心は?」
「スクープしてみんなに感謝されたいわ。
みんなが私のことをチヤホヤしてくれるために
誰も知らない情報を教えてあげるの。
人に役立つとかこれっぽっちも考えてないわっ!!」
口が勝手に動いて自分でもびっくりした。
マイクを向けた子供もびっくりしていた。
「わぁ、お姉ちゃん、このマイクすごいねっ。
このマイクを向けたらみんな本音を言っちゃうんだっ」
作品名:自称ノブレス・オブリージュのリポーター 作家名:かなりえずき