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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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こんなの書く奴は不謹慎だ!

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「ああ、ダメダメ!
 そのVTRは使わないで!!」

スタジオに入ると、番組ディレクターがせわしなく指示を出していた。

「どうしたんですか?
 あのお笑い芸人の映像、使わないんですか?
 とっても人気で視聴率も取れるといっていたのに」

「ああ、実はクレームが入ったんだよ」

「芸人にですか?」

「いや、というか番組そのものにだよ。
 世界には貧困で苦しんでいる人もいるのに
 こんなふざけたネタを流すなんて不謹慎だってね」

「そんな……」

「君もアナウンサーなんだから、
 とくにリアクションには気を付けてくれよ。
 ちょっとでも視聴者の癇に障るリアクションだったら即クレームだ」

「わ、わかりました……」

本番が始まると、番組を盛り上げようと元気な笑顔で臨んだ。
番組終了後には軽く引くほどの苦情が入っていた。

「なっ、なんですかこれ……!?」

「苦情だよ! 君の笑顔が不謹慎という苦情だ!」

「不謹慎って、なんに対して不謹慎なんですか?」

これでも精いっぱい頑張ったのに。
そんな反抗心からつい口答えしてしまった。

「えーーっと、『恋人にフラれた人がいるのに不謹慎』
 『地球温暖化が進んでいるのに笑うなんて不謹慎』
 『保健所で犬や猫がどんどん殺されているのに不謹慎』だ」

「あらゆる方面で不謹慎なんですね……」

「とにかく、次からは笑わないように頼むよ。
 視聴者の求めるリアクションをしなくちゃ
 もはやそれは"間違っている"と認識されるんだ」

「わかりました……」

次の番組では笑顔を完全に封印した。
真面目で真剣な顔で常に番組に臨んだ。

本番終了後、やっぱりクレームは入っていた。

「また苦情だよ! なんとかしてくれ!」

「そんな! 今度は真剣にやったのに!
 いったい何がいけなかったんですか?」

「えっと……なになに。
 『浮気のニュースを報道しているのに怒らないなんて不謹慎』
 『病気と闘う人の話なのに泣かないなんて不謹慎』
 『地元の球団が負けたのに悔しがらないなんて不謹慎』だそうだ」

「私、野球興味ないのに……」

どうしようかと悩んでいると、
警察がスタジオにずかずかと上がり込んできた。


「不謹慎警察だ!」

「えっえっ?! ふ、不謹慎警察!?」

「行き過ぎた不謹慎な行動を取り締まる警察だ。
 今回の報道はぎりぎり許されるラインだったものの
 今度不謹慎なことをしたら、どんな人間だろうと逮捕する」

「ひ、ひえええ……」

不謹慎警察の怖さに腰が抜けた。

これはいよいよ、リアクションを間違えられなくなった。
もし不謹慎な感情を表に出してしまったが最後、
どこに隠れていようとどんな人間だろうと即逮捕されてしまう。

「も、もう間違わないんだから……!」


次からはとにかく神経をすり減らしながら番組臨んだ。

泣くことが求められそうな場面で泣き、
怒ることが求められそうな場面で怒った。

でも、けして笑ってはいけない。
笑うのだけはどんな場面でも不謹慎になるからだ。

「……ニュースは以上です。
 では、次に各地の桜並木の映像をご覧ください」

ディレクターに目線を送ると、新人ADはVTRを再生する。
けれど、画面に映ったのは桜並木ではなく
お蔵入りが決定した芸人の映像だった。

「バカなにやってんだ!! 早く消せっ!」

「ああああ……どうしよう! どうしよう!」

自分の失敗にパニック状態へ陥る新人AD。
ここにいる誰もが不謹慎警察に逮捕されることを覚悟した。

けれど、それよりも先に緊急速報が入った。


「ただいま入りました緊急速報によりますと、
 先ほどの間違った映像を見て、
 不謹慎にも爆笑したクレーマーが一斉検挙されたそうです」