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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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へそを右に30° 左に12° まわせ!

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SNSにふざけて上半身裸の写メをアップした。
僕のムキムキボディーです、というタイトルで
実際の写真はビール腹の中年男。

いつものように特段反応はなかったけど。

>おへそ汚いっすね!

予想外のコメントが飛んできた。

「そんな汚いかなぁ?」

自分のおへそを見てみると、
確かにゴマ?みたいな黒いものが点々とある。

人差し指を突っ込んでかきだすようにねじる。
これで多少は取れたろうと、目を鏡に戻したときだった。

「ぼ、ぼく、こどもになってるぅ!?」

鏡には年端もいかない少年が映っていた。
ほかでもない俺だと気付くのに時間はかかった。

※ ※ ※

「子供料金で、都会町までの定期券ね。
 でも、都会町はビジネス街の駅だよ?
 君が通うところじゃないと思うんだけどなぁ」

「あ、ぼく、私立の学校なんで」

駅員を騙して子供料金で3ヶ月分の定期券をゲット。
駅のトイレに入って、へそに指をつっこみ15°ねじる。

俺の体はふたたび元の姿へ戻る。

「くくくっ、なんだこの不思議能力!
 最高すぎるじゃないかっ!」

子供の姿なら多少悪さしても怒られるくらいで済む。
でっちあげの「悲しい家庭事情」を話せば、同情さえされる。

その日の仕事を終えると、帰宅前に駅のトイレへ直行。

へそに指をつっこみ、左へ30°
俺の姿はたちまち若い頃の成人姿へ変化する。

「さぁ、今夜もパーティナイトだ!!」

若い体を存分に使いつぶして遊びまくる。
でも、若いので一晩眠れば疲れなんてどこ吹く風。

油っこいものも、ムリもし放題。
膝が痛くて階段を遠ざけていた日々がウソのようだ。


翌日は市役所に行って、真っ先にトイレへ向かう。
個室の中でへそに指を突っ込み、右へ180°

俺の体はたちまちしわくちゃのおじいちゃんになる。

「ふぉふぉ、すまんのぅ。
 年金の手続きをしたいんじゃが……」

「ああ、はいわかりました。
 では、ここにサインを」

「うぅん、目が悪ぅてのぉ、よく見えんわぃ」

「ああ、でしたらこちらで記入しておきます」
「すまんのぅ」
「いえいえ」

かくして面倒な書類の記入もせずに年金までゲット。
俺の不思議ボディはどこまでも使い勝手がいい。


好き勝手しまくる日常に慣れ始めたころ、
今日も若い奥様にちやほやされるべく、子供の体で主婦会へと足を運ぶ。

「ぼく、どこから来たのーー?」
「可愛いわねぇ、どこの子かしら?」
「お名前わかるかなー?」

ようし、今日も子供のあどけなさを利用して
乳をもみしだいてやるぜ。
まずは、愛嬌たっぷり叩き込んで警戒心を解かなくては。

「わしは、4つじゃ」

瞳の中にハートを宿してた奥様が一瞬で後ずさった。
小さな体から出てきたのは、声変わりしてしわがれたおじいちゃんボイス。

「な、なにこの子……」

「な、なんじゃこの声!? どうなっとる!?」

「きゃーー! 妖怪よ! 妖怪っ」
「きっ、気持ち悪いっ!」

蜘蛛の子を散らすように去ってしまった。
へそのねじり方を間違えたのだろうか。

調節がミスって、体の年齢がミックスされたのかもしれない。
すぐに普段の年齢に調整をし直す。

「ふぅ、これで元通りだ」

体はいつものおっさんボディに戻った。
そこに、1匹のちょうちょがひらひらと横ぎった。

「あ、あああ! ちょうちょだ!!」

体は自然と蝶を追いかけていく。
自分でもわからないけど、あれを捕まえたくてしょうがない。
なんだこれ。

蝶を追いかけている最中にも
やたら狭い路地に入りたくなるし、塀に上りたくなる。
秘密基地を作りたくなって、特撮ヒーローのマネがしたくてたまらない。

そう、これは。

「ぼ、ぼく、こどもになってる!?」

と、中年が路上で叫んでしまった。


へその調節具合にミスはなかった。
けど、度重なる変身に心と体が分離して――

「あああ、遊びたいっ!
 鬼ごっこが無性にやりたくてたまらないっ!」

このままじゃだめだ。
せめて子供の体ならまだしも、
中年のおっさんが短パン履いて虫網持ってたら様にならない。

とにかく、自分を取り戻さなくっちゃ。

「でも、ほんとうのぼくって、なんなんだろう」

思えば昔から虫は好きだった。
昆虫採集をしていた記憶もある。

それじゃ今の自分が正しい自分なのか。

でも、こんなに子供っぽくはなかったと思う。
自分を確かめるようにへそに指をつっこんでねじる。

体はそのままなのに、声はおじいちゃんになっていた。
さっきまでの昆虫熱はどこへやら。

「こっちが本当の自分なのかぃのぅ」

お茶をすすりながら、おせんべいをボリボリ。
毎日なんの目的もなくダラダラしたくて仕方ない。

でも、それも前からだった。
前からこういうダラダラは好きだった気がする。


もう、どれが本当の自分なのかわからない!


「あ、そうじゃ! SNS! SNSがあったはずじゃ!」

SNSは自分のこれまでの足跡が残っているはず。
少なくとも、俺は自分のすべてをここに書いていたはずだ。

SNSをチェックすると、そこに本当の自分があった。


バカみたいな写真を出した記事もあれば、
ちょっと真面目にニュースへの考察も書いたり、
たまにポエミーな詩なんかも書いてみたりして痛々しい。

子供っぽくて、大人っぽい、そんな自分が。

「ああ……そうか。
 俺は、俺は……こういうやつだった」

自然と声が元に戻っていた。

どれが正しい自分なんかじゃない。
どれも全部自分の一部分だったんだ。

俺はやっと本来の自分を取り戻せた。

「もう迷わない。これが俺なんだ。
 子供っぽいこともする大人が俺なんだ!!」

晴れ渡る青空に向けて、俺はさわやかに宣言した。



その瞬間、おしりに激痛が走った。

振り返ると、大笑いする友達がいた。

「あははは! なーにブツブツ言ってるんだよ!
 後ろ隙だらけだっつーの!
 かんちょうしてやったよ! あっははは!」

やれやれ。
やっぱり俺はこうじゃないとな。

子供のように笑い転げる友達に俺は言い返した。


「もう! なにするのよっ」


自分から出た女の声に、俺も、友達も凍り付いた。

「え……だ、誰?」

ショーウィンドウに映る自分は女の姿になっていた。
へそをいじると年齢が……おしりをいじると……。


「わ、私の体、どうなってるのよ~~!!」