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風呼び

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 オレンジの残滓が窓枠に蟠る頃
 硝子向こうの人波は一瞬だけ途切れる
 けれどもそこに風はない
 ただ濁った空気だけがぽっかりと
 澱んだ刻が流れるのを待っているだけ

 ―――誰か風を知りませんか

 今日の私は何だっただろう
 人ごみに逆らって逃げ込んだ薄闇で
 何も見えないぬるんだ空気に息を吐く
 酸欠の金魚みたいに不恰好でももがけるうちがきっと花
 自分で自分を励まし追い込んで

 ―――誰か風を知りませんか

 道端には鉛のように気鬱が沈む
 見ないように歩かなければ
 もう動きたくないと悲痛な声で哭く心
 許してとも言えないで視線をそらし嗚咽をこらえた
 窒息するまであと何分か
 カウントダウンの無情な声

 ―――誰か風を知りませんか

 破滅はいつも耳奥で子守唄のように回帰を誘う
 さらさらと遠く風の音に良く似た響き
 幻聴でもいいから息をさせて
 あの頃は何もない空間が全てだった
 埋めることに必死だった
 密度が上がると窒息するなんて知らなかった

 ―――誰か風を知りませんか

 詰めに詰めた大切なはずのものをかなぐり捨てて
 風吹く場所を求められたら
 私でも自由に息ができるでしょうか
 誘惑に負けそうな己を叱咤しつつ歩くアスファルト
 人いきれは遠くなったか
 望みはもはやそれだけ

 ―――誰か風を知りませんか

 帰り着いたのは星も見えない小さな空間
 これが素顔の自分に戻る場所
 鏡の向こうに何でもない私がいる
 3秒で壊して視界を閉ざす濃緑色の倦怠よ
 堕ちる眠りは沈黙の海
 風の声はとうとう聞けずじまいだけれど
 私はようやく夜の訪れを知る



 明日もまた永い一日が始まる
 祈りは天に届くか否か
 ―――明日こそ、風よ、吹け。
作品名:風呼び 作家名:睦月真