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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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不夜城のかざりつけ 第二夜

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昨夜なんとはなしにやった一人パーティが楽しかったので、今宵もあそびます。
きらきらするものを見つけたら持ってきてください、全部かざりたいので。
手ぶらでも大丈夫です、あなたの眼を頂きます。



★「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」

サントラを聴いている。
ともかくあの世界観がよくて、何べんも観たものだ。
ことにつぎはぎ人形のヒロイン、サリーが可愛くていとおしくて。
ある時ふと気づいたのだが、あの娘は非常に欧米のヒロイン離れしてると。
控えめで、辛抱強く、恋しい人にひそかに想いを寄せ、尽くす。
そう、近年のディズニーのヒロインの変遷で、こんな妙な心持になったに違いない。


近年のヒロインたちはもう男の助けも、なんならもう男すら必要としないぐらいの勢いで、がしがし生きる。進む。ダイヤモンドのように強く。
白雪姫だの眠れる森の美女だのシンデレラだのは、ひたすら控えめ、貝殻に守られた真珠のように王子様に守られる。
サリーは先祖返りで、和風にいうなら「演歌」の女だ。
自分はどっちなんだろう?と訊かれれば1秒の迷いもなく後者だと答える。
闘って勝ち取る世界に興味はない。わたしはほっといてもやがて死んで世界そのものに溶ける。
誰かを必要とし、必要とされる存在など全く要らないと即答できるほど強くないし、強くなる気もない。そんな自分勝手な理由からわたしは後者なのだ。まるきり弱気なのだ。控えめなかわいこちゃんじゃないけれど。
それにつけてもサリーが贈り物を窓から糸で降ろし、夜空にダイヴするシーンの麗しさを思い出すと総毛立つ。叩きつけられた地面で上機嫌にぱちりと目を開け、ちぎれた手足を自分で縫い合わせる健気さ。
あどけなく深い夜空の下。



★ うまれつきの花

生半可な好きではなくほとんど獲物を狩るハンターのように毎日どこからでもあらゆる花を摘んで帰ってきた。
レンゲ。ホトケノザ。ヒメノオドリコソウ。オオイヌノフグリ。ムラサキケマン。ナズナ。ニホンタンポポ。タチツボスミレ。ツクシ。アヤメ。秋には紅葉やつやつやした木の実を手にして。いったいどこの田舎で育ったんだと思われるかもしれないが、東京郊外もかつては田園風景が広がっていた。
とうとう17の歳に花屋でアルバイトを始めた。
わたしの海馬は猛然と働き始め、花とその名を憶えていった。
サンダーソニア。カンガルーポー。ミモザ。マトリカリア。キルタンサス。スカビオサ。ヒペリカム。トルコキキョウ。ピンポンマム。グロリオサ。オンシジウム。デンファレ。ネリネ。ムスカリ。カランコエ。エリカ。



爆発してもしても広がる知識欲をやがてなだめたのはちょいちょい人生に触ってくる男の子たちで、やがて恋人ができると海馬はねむった。
今は起きて伸びをしてる感じ。
そして街や店を眺めながら昔なじみと新顔に会う。そして17歳の春を思い出す。
黄色。赤。ピンク。ブルー。緑。むらさき。白。ワイン。水色。黒。オレンジ。
その洪水と香りに包まれた狭い店内を閉めながら、店長と吸った煙草の味が忘れられない。彼はラーク。重労働のあとの心地よい疲れを、花たちが癒してくれた。わたしたちは互いをねぎらうように、黙って微笑みながらうまい一服を味わった。



★ 人魚の靴 

一体どこまでハイヒールは伸びていくんだろう?
これまでに履いた中で最も高いヒールは8センチだか9センチだった。
忘れもしない、白い合成皮革のとがった一足。
歩くとたちまちとびあがるほど足が痛くなり、プラットホームの端までなんとかかっこつけて歩いて行って、大きな柱の陰に隠れると脱いで顔をゆがめた。
纏足なのだろうか。そうでもない。
これが発明されたのは19世紀末のフランスで、道じゅうに落ちている犬の糞を踏まないために考案されたのだという。やがてはファッションとして普及し、一時は纏足的な意味合いもあったかもしれないが、今やこれぞという女性のシンボルと言えるだろう。レディ・ガガの未来の足元。
個人的には7センチぐらいのヒールが好きだ。形はごくごく普通ので。色はもちろん、黒。夜を統べる全能の色だ。




さて、そろそろわたしも黒に溶けるとしましょうか。
きらきら、はその辺にばら撒いて。