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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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イマジカ

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逃げ道を知ってる?


極彩色の雨音がする。
さっき食べたミートソースのパスタがいけなかったのか、なんだか胃のあたりが変だ。
そういえば頭の中も砂利道を走る車内のようにシェイクしてる。
にっちもさっちもいかなくなる前兆だ。バッド・オーメン。
逃げ道を知ってる。



こういう時は、重苦しく哀しい「音楽」をかけてどっぷり浸ってしまうことだ。
昔誰かが言ってたが、落ち込んでる時は明るい気分になれるような曲を聴くのではなく、同調するような曲を聴くといいのだと。
カタルシス効果、というやつか。イメージを遣うのだ。
で、アリス・イン・チェインズを。あとはサウンドガーデンかな。
もうもう、どっぷりどっぷり、とろみをつけた墨汁のよーな音楽。



病気といえば病気だが、病気の人なんかいくらでもいるし、むしろ
「わたしは100%健康です」という人をあまり見たことがない。
いたとしてもそういう人は他者に悪い意味ではかかずらっておらず、泰然自若と我が道を行っている気がする。だからあまり病人と健康人は交差しないのかもしれない。
精神科医やカウンセラーはほとんど病んでいるそうだ。
長年診察室に通い続けて、いろんな医師やカウンセラーに会ってきたが、時々気の毒に思ったくらいだ。
「毎日何時間もこんな人間の相手ばっかりしてたらおかしくもなるよ」と。




問題は病気に勝ったり負けたり呑まれることではない。
声高に自慢にすることでもない(自戒を込めて言うが、アーティスト崩れにそういうのが多い。「あたしってセンシティヴでしょ?」。ここから脱却するにはそれなりに戦わねばならぬ)。
問題は病気とどう付き合うか、ということだと思っている。
眼鏡やインシュリン注射と同じで、肉体的な病気や障害と同じに考える。
心と体はつながっている。



症状が荒れる時は上記の音楽を使ったりしてなだめたりすかしたりし、調子の良い時はありったけを楽しむ。きちんと人生を謳歌できるというわけ。
カンターレ・マンジャーレ・アモーレ。



音楽が心の形を変えていく。イメージが顕れ始める。窓の外の豪雨や強風の、炎のような烈しさ。あるいは静かな階段を昇ってくる靴音。ふり仰いだ空の円さ。
ギターの弦の下でかき鳴らされて落ちていく花の真紅。人体に入って悪さをしようと企んでいる可愛い煙草の眠り。



イメージを食べて生きてるのだ。
さっきのミートソースはどこから顕れた?
そう、わたしが欲し、材料を出して刻んだり煮込んだりして作ったからこの世に生まれたのだ。
イメージをすれば、それは顕れ、食べたり聴いたり着れたりする。
イメージが人生を作る。意思が死ぬその日まで。



だから大事なことは意思を死なせちゃいけないということ。精神病はここに病巣を作るので、うまく付き合わなきゃならないのだ。
自分の中の悪玉と遊んだりレスリングをしたりするイメージ。
病気を飼う。飼いならす。
そして一緒に、ミートソースを食う。



病気になってつらいはつらい半生だったが、なかなか面白い半生でもあったとも言える。少なくとも色んなイメージをもらったことは、掛け値なしに。
作品名:イマジカ 作家名:青井サイベル