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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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しゃべるな!ゴミが増えるだろっ!

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「ふあ~~ぁ」

朝起きて大あくびすると、
"ふあ~ぁ"という文字がぼとりと布団の上に落ちた。

「な、なんだ!? なんだこれ!?」

今度は"な、なんだ!? なんだこれ!?"という文字が降ってくる。
なんでもない日曜日に世界は急変した。

外に出てみると、コンクリートは文字で埋め尽くされて
足の踏み場もない状況だった。

「おはよう」だとか「こんにちは」という文字もあれば
「どうなってるんだ」「なんなのよこれ」という文字もある。

やっぱりみんな戸惑っているんだろう。
自分の話した言葉が実体化してしまうなんて。


でも、人間の適応能力というのは恐ろしいもので
数日もすれば気にする人は誰もいなくなった。

道にはいくつもの文字が転がってるのが当たり前。
「どうなってるの!?」系のびっくり文字はすっかり見なくなった。

そうなると、増えてくるのは――


「ああ、またかよ」

俺の言葉にした"ああ、またかよ"が地面に落ちる。
地面にはぎっしりと悪口がすでに敷き詰められていた。

なぜか俺の家の周りはたまり場にされることが多く、
ここでかわされた悪口が家の庭を埋め尽くしている。

家に帰るたびに「あいつむかつく」「死ねばいいのに」など
ネガティブな文字を見せられるのは、なかなかつらい。

今日も掃除機で地面の悪口を回収していく。
犬の糞みたく、発言者が持って帰ればいいのに。


「まったく、これじゃいくら紙袋あっても足りないよ」

俺は自分の愚痴も掃除機で吸い取った。
掃除機の紙袋はぱんっぱんになり、悪口爆弾となっていた。

そこに、つけっぱなしのニュースが流れる。


>政府は増え続ける「言葉」の処理先が足りないことから
 全世界で文字の処分を打ち止めました


という字幕。

俺の手に持っている悪口爆弾(紙袋製)は
完全に処分先を失われることになった。

使い道もないので、俺の部屋で置きっぱなしになった。
こんなの……どうしろっていうんだ。



言葉の処分がされなくなると
町は前よりずっと文字で埋め尽くされると思っていたけど
結果はむしろ逆だった。

声を使わずにSNSやアプリなどで
チャットすることが当たり前の世界になっていた。


ネットで悪口を言い合っているのか
地面には悪口が転がる光景は少なくなり、
地面にはむしろ、相手を褒めたりするポジティブな言葉が増えた。


俺も例にもれず、
チャットでの会話だけになり声なんて使わなくなっていった。
でも、チャット経由で彼女もできたし悪い気はしない。


そして、訪れた彼女の誕生日。

俺はサプライズで「愛してる」の言葉をプレゼントしようと思った。
無言でハッピーバースデイの曲をチャットで打ち込み、ローソクを消す。

すうと息を吸うと、声を出した。

「        」

が、声は出ない。
何度挑戦しても声はでない。

>なにやってんの?

彼女は俺の奇妙な行動を不思議がって、チャットを送る。
サプライズ失敗を悟り、俺は「あいしてる」をあきらめた。


後になって確かめてみると、
俺の体は声を使わない生活に慣れすぎて声が出なくなっていた。

でも、告白の言葉がチャットというのも……。

今年のゴールデンウィークには、
告白してハネムーンに行きたいと思っているのに
声が出なくて告白できなければそれも不可能。


あ、そうだ! 誰かの言葉を使えばいいんだ!


町に出ると、しめしめとばかりに言葉が落ちている。
俺が放った声じゃない文字を手に取り、持っていたハサミで切ってみる。

おなか/へった

「おなか」

おお!声が出た!

中央で切った文字を自分の口にほおばると、
口から聞きなじみのない声が出てきた。

切ったもう片方の「へった」は、
どこかに飛ばされて元の発言者の口へと戻っていく。

自分では声が出せなくなっても、
誰かの文字を使えば声にすることができる。
俺はすぐさまあたりの言葉を集めた。


数日後、なにも知らない彼女が俺の家に来た。

>伝えたいことがあるって聞いたけど?

>ちょっと待ってて

俺は彼女を待たせると、
用意していた文字を開いて先頭の文字を切っていく。


あ つし、私はあなたのことが好き
い いのよ。あんな男、遊びで付き合ってるだけだから
し らんぷりすれば大丈夫。どうせ気付かないわ
て るゆき、キスしてっ?
る -るなんてないのよ。恋には

け いけん人数はヒ・ミ・ツ
つ いてきて。今は家に誰もいないから
こ いにルールはないわ。いろんな男を愛したいの
ん んっ。だめよ、そこは……♥
し んじて。浮気がバレるわけないから
よ るは、敦(あつし)と一緒にいたいの♪
う ん。私も愛してるわ、照幸(てるゆき)


「愛してる。結婚しよう」

俺は切り貼りした言葉で、愛を告白した。





その瞬間、切り抜いた言葉がすべて持ち主の下に戻る。
目の前にいる彼女の口の中へ。

そこで初めて俺の声帯は、自分の声を久しぶりに絞り出した。

「敦って……照幸って誰だよ!?」


俺は家にあった悪口爆弾を浮気女の顔にぶつけた。
間違いなく悪口爆弾の正しい使い道だと確信した。