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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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醜い顔

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わたしは小さな奇形をいくつか持っている。


奇形、病気、傷跡、火傷をもっている人々の顔の写真集を見たことがある
それぞれの人の顔のアップとプロフィールだけが連綿と綴られている。
ほとんどを、直視できなかった。
かれらの顔の醜さに怖気づいたのではない。
かれらが勿論一人一人の、希望も悩みもある人間で、そのむごい見た目がかれらを壊してはいまいかと怖かったのだ。
案外、さばさばとしている人もいれば、人目を避けて暮らしている人もあった。
わたしは特筆すべき外見ではないが、人目を避けて暮らしている。
かれらと大差ない、やはり人間に過ぎない。


ベトナムの市場で物乞いに出会った。
古びた野球帽、何日着ているのか見当もつかないぼろぼろのジーンズとシャツ。
お金がなかったのでわたしは「いい一日を!」とだけ言ってにっこりして去った。
旅の最後に彼にまた偶然会い、同じように声をかけると、こんどは物をねだらず笑い返してきた。
火傷かハンセン病かであろうその顔。
ゴムの仮面を焼き溶かしてでたらめにぐちゃぐちゃとくっつけて、冷やし固めたような顔。
笑っているのがわかった。こちらの心をほぐしてくれる、かわいい優しい笑顔だった。


アマチュアながら物を書くようになって、いくつか変遷してきたことがある。
ともかく始めの頃は、人物をとびきり美男美女に描きたくて、その登場人物たちに極甘の恋物語を生きて欲しくて、美辞麗句を書き連ねた。
出来上がったシロモノは、「ぬりえ」みたいだった。
「ああ、そういうのが書きたいのね」。
自分でもうんざりするほどわかりやすくキラキラで、うすっぺらかった。
たとえ知っている限りの語彙を駆使していても。


つぎに試したのは「見た目も性格もクールな男女がふわふわだらだら「現代」っぽく過ごしながら冒険する」(例を挙げるのは避けておくが)というストーリー。
書いてて速攻で腹が立ってきた。
こういうのを文学で表現すると、読むのも嫌いだが書くとなると辛抱たまらなくなる。あーはいはいかっこいかっこいい感動感動OK。
巧い監督が録る映画なら面白い作品になるのかもしれないが。


美しい顔のタレントや俳優がいて、その顔めがけて多数が殺到する。
ゲームやアニメの中では絶世の美姫や気高い王子が活躍する。
恋愛小説の中の女性男性は色白だったり整った顔だったり、類稀な美をお持ちだ。


でもわたしは、あの写真集の中の人々と、ベトナムの物乞いの焼け爛れた、可愛い笑顔が忘れられない。
自分の体の足りない部分と多すぎる部分にふと触れ、思い出す。
あの、笑顔。
それだけ、忘れない。
作品名:醜い顔 作家名:青井サイベル