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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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紙のお店に1名様ご監禁~~♪

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「どうぞーー、どうぞーー。
 お店配ってますーーどうぞーー」

駅前でティッシュ配りだろうか。
ピザ店の制服を着た人が紙を配っていた。

クーポン欲しさに手を伸ばすと、
1枚の紙をもらった。でもクーポンじゃなかった。

「……なんだこれ?」

紙には、お店の絵が描かれていた。
それだけしかない。

「落書きした紙を配るなんて、いったいなに考えて……」

中の店の絵に触れた時だった。
一瞬で紙の中に吸い込まれたかと思うと、
あたりは人がごった返す駅前から、ピザの店内に切り替わった。

「いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」

 ・
 ・
 ・

それから、店員と話を聞いて紙の店の存在を知った。

「ああ、うちは紙の店で出張店舗も出してるんです。
 紙に触れれば、紙に書かれているお店に行けるんですよ」

「それはすごい。
 なにも書かれてない紙はどこで手に入りますか?」

かくして、俺もまっさらな紙を手に入れた。
そこに自分が出したいお店の絵を描く。

絵心はないので、サザエさんのエンディングに出てきそうな
雑な外観のお店になってしまったが、それでもいい。

念願だったバイクの店を持つことができた。

「ついに……! ついに俺の小学生の夢が……!!」

嬉しくなって紙の店をたくさんコピーして配ることに。
幸い、バイク好きの人は多いらしく、
俺の店にやってくる客が絶えることはなかった。

客のバイクを直したり、
バイクのパーツを選定したり、
ときにはバイクのことを語り合う……。

もうそれだけで、人生が最高に充実した。


「あなた、最近どこに行ってるの」


食事の席で嫁が放った冷たい言葉に、ごはんを詰まらせた。

「どこって紙の店だよ。
 前にも話しただろ? バイクの店をやってるって」

「本当に?」
「本当だって」

「とかいって、本当は愛人との別荘を紙の中に書いてるんじゃない?」

「違うって!」

「じゃあ見せて」

俺は仕方なく嫁に紙を渡した。
嫁が紙に触れて店に入って数秒後、すぐに戻って来た。

「なにあの店。あんなのにほぼ毎週の休日を注いでるの?
 あんなのにうつつを抜かすくらいなら、
 ちょっとは私に家族サービスとかしたらどうなの?」

嫁の物言いに、温厚な俺もむっとした。

「だいたい、バイクなんて時代遅れなのよね。
 あんな金のかかるものをロマンとか言ってるんでしょ?
 バイクにまたがる自分の姿を想像してるナルシスト集団……」

「いい加減にしろっ!
 バイクをバカにするなんて許さないぞ!!」

俺の大声に気おされた嫁は、うっかりまた紙の店に触れて消えた。
すぐさま紙を二つ折りにして、俺以外開けない場所に閉まった。

紙の店は、二つ折りにすると閉店させることができる。
きっと今頃嫁は店の中に閉じ込められているだろう。

「ふんっ。バイクのことをバカにするからだ。
 少しは反省しろっ」




数日が過ぎた。

嫁がいなくなったことで俺の食事はピザばかり。
冷蔵庫には食べかけのピザの箱がストックされている。

「……そろそろ嫁を戻そうか。
 もうお腹も減ったし……ピザは飽きた……」

紙を探すことにしたが、いっこうに見つからない。
確かに、普段隠さないような場所に隠した覚えはあるが……。

「どこに隠したんだっけ?」

紙の店はどこにもなかった。
そこで、嫁のケータイに電話してみることに。

紙であっても音はこちらにも届く。
通話の音が聞こえれば、どこに紙があるかわかるはずだ。


――プルルルル。


いっこうに音は聞こえない。
電源切られているわけじゃないから、別の場所だろうか。

警察に連絡を取ってケータイの場所を特定してもらうと
知らない男の家にあることがわかった。

やぶをつついたら、まさか蛇が出てくるなんて。

浮気を疑っていたのも、
自分が浮気していた後ろめたさからくるものだったのか。許せんっ!

「コラァ! こんの浮気野郎!
 人の嫁に手を出すたぁ、いい度胸だ!!」

俺はバイクで相手の家に乗り込んだ。
ぶぉんぶぉんとエンジンをかき鳴らす。走り屋の血が騒ぐ。

「え、えええ!? 浮気!?」

「しらばっくれるのか?
 この家から嫁のケータイの反応が出てきてるんだよ!」

「こ、これは拾っただけです!
 前に拾ったんですが忙しくて警察署に行けなくて……」


「え? 拾った?」


どっと疲れた。
お腹が空いて気が立っていたのもあるけれど、
この徒労感は胃袋と体にボディブローを浴びせられたような疲れを残した。

結局、手がかりはつかめないまま
俺は仕方なく家に引き返すことに。おなか減った。

「ただいまーー……」

冷蔵庫のピザの箱を取り出してレンジに放り込む。
これで連続9食目のピザの晩餐。
でも、おなか減ってるからどうでもいいや。
自分の集中力がどんどんなくなっているのがよくわかる。

「しかし、紙はいったいどこに隠したんだっけなぁ。
 お互いに頭も冷えて謝るにはちょうどいい頃合いだけど
 紙が見つからないことにはどうしようもないし……」

口の周りをトマトソースだらけにしながらピザを平らげた。
箱に入っていた紙ナプキンで口周りを拭き取った。



「……あっ」

そして、ついに紙の在りかを思い出した。

俺以外開けない場所……。
それはひとつだった。

俺の食べかけのピザの箱。

俺しか開けない場所に、紙の店をしまっていた。


恐る恐る、うっかり紙ナプキンとして使った
二つ折りの紙を開いた。


「どういうつもりかしら?」


全身トマトソースだらけにされた嫁が、
紙の店に入る前よりも怒った顔で舞い戻った。

もう仲直りする隙などない。