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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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時代凍結官の転職先

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「時代凍結官、次の仕事だ。
 原子力発電所の事故の歴史を凍結してこい」

「はい」

俺はさっそく年表を開いて、その時代に向かう。
手には特注の冷却装置を持って。

時代の凍結が終わると、依頼主から金が振り込まれる。

「今日もいい仕事だね。
 これであの時代は凍結されたんだな」

「ええ、もう誰にもあの歴史を振り返ることはできません。
 私だけにしかわからない凍結方法ですから」

「それなら安心だ。
 歴史には知らなくていいものもあるからね」

時代凍結官のところにやってくる依頼はたいてい大物からだ。
スキャンダルの歴史から、国家的な歴史まで依頼される。

人々の紡いだ歴史を、
誰の手にも届かなくなるように凍結するのは楽じゃない。
本来は時間をかけて凍結するものだから。

「君が時代凍結官だね」
「噂は聞いているよ」
「君の凍結は完璧なんだってね」

「はい、私にしかやり方がわからない凍結方法です。
 なのでセキュリティもばっちりですよ」

俺の仕事ぶりがだんだんと評価されたのか
最近は凍結依頼がひっきりなしに飛び込んでくる。

いくつもいくつも時代を凍結していく。

いまや人々の心の中には
凍結した時代があったことすらわからないだろう。

「助かったよ。時代凍結官」

依頼者はみんな忌まわしき過去を凍結されて
満足そうな顔で帰っていった。


そんなウハウハな状態がいつまでも続くと思っていた。


ある日を境に依頼はぴたりと止んでしまった。
このままでは生活していけなくなる。
俺は依頼者のひとりを訪ねた。

「あの、どうして凍結依頼をしないんですか?
 前はほぼ毎日小さな歴史の凍結を……」

「君のことが知られたんだよ」

「えっ?」

「君は有名になりすぎた。
 時代凍結官という存在そのものが認知されてしまっては、
 君を利用する人は後ろ暗い過去があると思われるだろう」

「そんな……」

「ということで――」

依頼者は合図を送ると、隠れていた人たちがたちまち俺を抑え込む。
地面に押さえつけられて身動きが取れない。

「な、なにをするんですか!」

「時代凍結官として君の最後の仕事だ。
 時代凍結官の歴史を凍結させたまえ」

「俺の歴史を……無かったことにしろってことですか!」

「凍結官そのものの歴史が凍結されれば、
 もうその存在を知るものはいなくなるだろう。安心だ」

依頼者は冷ややかな目で続ける。

「さもなくば……どうなるかわかってるね?」

「ぐっ……」

断る余地はない。
残された選択肢は「Yes」のみだった。

「……わかりました。
 時代凍結官の歴史を凍結させればいいんですね」

「ああ、よろしく頼むよ。
 君だけが知っている特殊な凍結方法でね。
 それならセキュリティも安心だ」

「最後にひとつ、お願いをしていいですか」

「ああ、いいとも。
 君にはさんざん世話になったからな」

「凍結後に記者会見をさせてほしいのです」

「セッティングしよう。 
 しかし、わからない注文だな。
 凍結官の歴史が凍結される以上、引退会見なんて意味ないぞ」

依頼者は記者会見を準備した。
そして、俺は自分の仕事の歴史を凍結させた。

「凍結完了しました。
 これで凍結官の歴史を知ることはできません」

「ご苦労。君は無職になるというわけだな。
 どうかな? 私の秘書として働くというのは?」

「いえ、別の就職先があるので」

俺はその足で記者会見場に向かった。
会場に入ると、記者たちは"なにが始まるんだ"と目を白黒させた。



「はじめまして、私は時代解凍官といいます。
 闇に葬られた歴史を解凍することができます」

その後、スキャンダルに飢えた記者たちから
依頼が飛ぶようにやってきたのは言うまでもない。