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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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土曜日なんだし、ちゃんと休んでる?

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仕事も結婚もできて今の生活に不満はない。
最近は仕事がとても楽しいし。

「さあ、ばりばり働くぞっ」

「あーー、君きみ。
 そろそろ、ゆうきゅう休暇を消化しておけよ」

社長に話を聞くと、最近は労働基準がとても厳しいらしく
ちゃんと休暇をとっているような会社でないと
たちまちブラック企業とレッテルを貼られるんだとか。

「はぁ……休み、ですか。
 できれば、仕事していたいんですけどね」

「休みも仕事のうちだ。
 それに、気付かないところで疲れていることだってある」

「そうですね、わかりました」

といっても、わずか1日。
1日休んだくらいで仕事が滞ることはないだろう。

俺は安心してゆうきゅう休暇を取った。

翌日、妻はいつもの時間に俺を起こした。

「あなた、起きなくていいの? 仕事は?」

「ああ、今日はゆうきゅう休暇を取ったんだ。
 だから今日は1日ゆっくりするつもりだよ」

「ふぅん」

いつもの休日のように遅く起きてゆっくりしていた。
しかし……やることがない。

新聞を読んで、テレビを見て……やることがない。

結局、1日寝たり起きたりしながらダラダラすごした。
たぶん、牧場の家畜に近い生活だったろう。


翌日、会社に戻ると社長は目を丸くした。

「お前、どうして出社している?」

「え? だって、昨日でゆうきゅう休暇は終わったので」

「悠久休暇はちゃんと休まない限り終わらないんだぞ?
 それなのに、お前ときたら
 悠久休暇を取る前よりも疲れてるじゃないか!」

「えええええ!?」

「休み直しだっ!
 ちゃんと悠久休暇で休まないと戻ってこれないからなっ!」

会社から蹴り出されるようにして、自宅へと戻った。
俺の所得した『悠久休暇』は、悠久のときを過ごす休暇。
ちゃんと心から休まないとダメらしい。

家に帰ったら妻は驚いていた。

「あら? あなた、ずいぶん早いのね」

「それより、明日は温泉へ行こう」

早く仕事に戻るためにはちゃんと休む必要がある。
温泉でゆっくりすれば、きっと休めるだろう。

翌日、妻と二人で温泉にいった。
お土産なんかも買ったりして、最高に充実した時間だった。

で、会社に戻ると――


「ダメだ。休み直し」

「ええええっ!? なんでですか!?」

「温泉行っても結局は疲れてるんじゃないか。
 温泉までの道中の運転に、ついたらついたでやることないから
 会話やらで気を使って心が疲れているじゃないか」

ということで、また家に蹴り戻された。

「あなた、また帰って来たの? 悠久休暇は?」

「それが……うまく休めなかったみたいだ」

「あなたが家にいると、
 あなたのぶんも料理しなくちゃいけないから
 私も休めないのよ。早く仕事に戻って」

「俺だって頑張ってるんだけど……」

どうして俺はこんなにも休むのが下手なんだ。
海のサメは泳いでないと溺れるというが、そのたぐいなのか。
俺の前世はサメなのかっ!

こうなったら、何としてでも休んでみせる。

翌日は、マッサージのお店をいくつもハシゴした。
これならと会社に戻る。

「ダメだ。肩こりとかは改善されたが、心が休んでない」
「もうっ!」

休み直し。
今度は、旧友にあって飲みまくった。
懐かしい思い出をいくつも話し合って最高の夜だった。

会社に戻ると……。

「ダメだ。話して心は軽くなったかもしれないが
 臓器、肝臓がぜんぜん休めてないじゃないか」

「うそぉぉぉ!?」

休み直し。

今度は酸素カプセルに入りながら
薬で強制的に深い眠りについた。まさに化学療法。
会社に戻ると……

「ダメだ。心も体も休まってはいるが
 それは悠久の時間を過ごして休む、悠久休暇とはちがう。
 心穏やかな日常を過ごすことが大事なんだ」

「もうわかりませんよぉ!」

またまた休み直し。

休みの定義とはなんなのか……。
そんな哲学的な命題すら考えるほどに俺は追い込まれた。

「ただいま……」

家に帰ると、仁王立ちの妻が迎えた。

「出てくから」

「……え」

「あなたと毎日過ごすようになって気付いたの。
 私、あなたと一緒には暮らせない。
 話しかけてもすぐに会話は止まるし、
 もう本当に我慢できない! さようならっ」

俺の言葉を待たずにさっさと妻は出て行った。





翌日、会社に向かうと社長は満足そうな顔をしていた。

「おお、ついに悠久休暇を明けられたようだな。
 心も体もすっかり休めているようじゃないか。
 いったい、どんな風に過ごしたんだ?」

「いえ、別に。なにもしてませんでした」

「そうなのか? 何か特別なことは?
 なにもなかったら、心穏やかに過ごす悠久休暇をこなせないだろう」

俺はふと考えて、1つだけ思い当たった。


「しいてあげれば、妻が家にいなかったくらいでしょうか」