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コトハトマコト
コトハトマコト
novelistID. 59548
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七瀬先生と心春ちゃん

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僕は言葉を失いました。
季節は10月。こんな寒い日にアパートの廊下で下着だけで出ていた彼女を見たのです。彼女は体育座りをして膝を抱えていました。そしてぷるぷると身震いをしていたのです。顔は見えませんでしたが、彼女が石川心春さんだとはすぐにわかりました。


「あ…石川さん!?どうして下着だけで…こんな。」


僕は石川さんに近づき、しゃがみました。
すると彼女は顔を上げたのです、やっぱり石川さんでした。
その石川さんの顔は青白く、瞳は潤んでいましたが、目の下は黒く虚ろでした。


「な、七瀬先生…」


石川さんは僕を見るなり驚いたような顔をしてさらに青ざめていきました。
そして唇を固く閉じて、また顔を下げてしまいました。


「もしかして、親御さんに追い出されたの?」


「…」


ー反応なしかいー


僕の部屋の隣にうちの学校の児童が住んでいたのはなんとなく知っていました。僕が新人で入った小学校の児童。しかも僕が唯一国語を教えている6年1組の児童でした。時々アパートに入っていく彼女を見たことがあったし、僕の部屋の隣の部屋の表札には”石川”と書かれていました。だから、彼女が隣に住んでいたのはなんとなく知っていたのです。
でも、まさか彼女が虐待を受けていたとは知りませんでした。知る由もありません。しかし、これは虐待だよな、そうだよなって思いました。


「僕が親御さんに話すよ。」


そう言い立ち上がろうとしました。
すると、石川さんがすごい勢いで飛びついてきました。


「ま、待って!!そ、そそそ、そんなことしたら…こ、殺されちゃう!!…あぁ…はぁ、は、はぁぁ…あぁぁ…いやぁ…うぐぐぅ」


石川さんは僕の胸に飛びつきスーツをグッとつかみ、叫んだと思ったら、次は唸り声をあげて泣き出したのです。小学六年生の女の子が、教師の胸で下着姿で泣いている。こんな姿を誰かに見られたらクビだなと、考えながら、彼女をただ見つめていました。
そっと彼女の肩に触れました。石川さんの肩はとっても冷たく、ぷるぷる凍えていました。だめだ、このままではいろいろとやばい。


「どうしたらいい。ここにこのままその格好でいたら、どのみち死んでしまう。学校の先生として、君のこんな姿を見たからには、黙っていられないんだよ。」


そう言うと石川さんはゆっくり僕から離れてまた体育座りに戻り、顔を下げました。
チラッと見えた顔は、とっても冷静そうな、悲しそうな、哀れな顔をしていました。


「誰にも、言わないで。絶対に、誰にも、言わないで。そして、早くここから消えて。お母さんに見つかったら…こ、殺される。」


彼女はそう言い、俯いてしまいました。


僕はゆっくり立ち上がり、自分の部屋に向かいました。
どうすることもできない自分がとってもとっても情けなくて。
どういう風に声をかけてあげたらいいかわからなくて。


「な、何かあったら必ず僕のところに来るんだよ!?いいね?あ、あと今何かあったかいもの持ってくるから待っていて!」


そうだ、とりあえず毛布とココアでも持っていこう!!
急いで毛布を取り、お湯を沸かしてココアを作ることにしました。出来上がるまで毛布で包んで温めてあげようと思い、アパートの廊下にでました。


だけど、そこには、もう彼女の姿はありませんでした。



次の日は10月8日の水曜日でした。
正直言って一睡も眠れなかったわけですが、学校に行けばまた彼女と話ができるわけですから、仕方なく学校に来たわけです。


朝の会に行っていた6年1組の担任の森下先生が職員室に戻ってきました。1時間目の算数の準備をしているようでした。僕は石川さんが気になりすぎて、居ても立っても居られなくなって、石川さんは今日登校していましたか?と聞いてみました。


「石川さん?あぁ、元気に登校していますよ?どうして?」


ー元気に登校。ー


実は僕はあれからずっと考えていました。
昨日あそこにいた少女は石川さんではないんじゃないかって。
今までだって虐待を受けているようなそんな素振り見せたことなかったし、学校では普通に友達に囲まれて楽しそうにしている姿を見せていました。
だから、昨日あそこにいた少女はきっと石川さんではないんだ。そう考えるようになってきました。そもそも僕がどうにかできる問題ではないし、僕には関係ないし。
でも、それでも、確かにあそこに少女はいた。冷たい肩に触れたことは確かに現実であった。それだけは本当なんです。


2時間目は6年1組の国語の授業でした。
教室に行くまでの間、とてもドキドキしていました。石川さんは僕を見て目を背けるだろうな。いや、そもそもあそこにいた少女は石川さんではないんだ。そうだよな、きっとそう。こんなに緊張することはない。そう考えながら教室の扉を開けました。


「よーし、授業はじめるぞー、号令」


よし、いつも通り。いつも通り。


「今日は休みいるかー?」


「心春ちゃんが保健室でーす」


ーあぁ…ー
石川さんが今日の国語の授業にいないってことが、遠回しに昨日あそこにいた少女は自分だ、と言っています。


ー明らかに僕を避けている。ー


授業が終わり、20分の中休みに入ると児童たちが勢いよく教室から出て、校庭やら体育館やらに走って行きました。


僕はあえてその中休みを6年1組の教室で過ごしました。
最近の女子はマセた子ばかりで、僕をよく茶化してきます。
オススメの小説教えてー、と言ってきたので教えてやったら、先生彼女いんの?!から始まり、先生ってどんな子タイプー?、先生あんまり運動出来なさそーなど破茶滅茶なことを言ってきます。


「先生は中学の時からずっと陸上部だったんだ、走ることは得意だぞ」


メガネのくせに似合わねーと指をさして笑ってきます。


ーうっせッ!ー


チャイムが鳴り、石川さんが教室に戻ってこないことを確認してから保健室に向かいました。
保健室に入ると、誰もいない様子でしたが一つだけベッドの周りにカーテンがされていました。カーテンの奥のベッドの上で、きっと彼女は寝ているんでしょう。


「石川さん。」


「石川さん、入るよ。」


カーテンを恐る恐る開けると布団をかけている石川さんが横になっていました。しかし、寝ている様子で寝息を立てていて、肩も上下していました。


ー昨日は寝れなかったのだろうか。ー
彼女をもう少し見ていたくなって、ベッドの横にある椅子に腰掛けました。彼女の髪の毛は長くてさらさらしています。ちょっとだけ、髪に触れ、頭を撫でてみました。


気づけば昨日から石川さんのことばかり。
そりゃあそうです。自分の学校の児童が虐待を受けていたかもなんて思ったら心配になりますよね?