ランナー
スパイクの血に やり切れなさが滲むなか 君は静かに笑った
沿道に飛び交う声援を横目に 止まりかけた足が答える
目の奥に宿る 熱き思いにもう一度光が射す
一歩進むたび 全身に走る激痛 もう限界は超えている
止めに入る手を わずかに交わし 君はまた走り出す
あの頃の君に似た 強さ溢れる力に もう追いつくことはない
だが君は目をそらすことなく ただ真っ直ぐ前を向く
歯を食いしばり 息も絶え絶え それでも風を感じたくて
君は重い足をまた一つ進めていくんだ
最後のトラック 君が求めた大歓声 今は他のもの
思いは誰より強くても その走りに力は無し
前のめりになった気持ちに体が追いつかず
痛々しい傷が体に何度も刻まれる
強い君がついに天を仰いだ 雲の切れ間にみえる光
君を包むよう そっと射す光に 目を移す大衆
止まりかける足に命が宿る 求めた歓声 再び盛り返す
それは誰でもなく 君だけのものだ
走馬灯のように駆け巡る 努力の日々が今報われる
ゴールテープが風になびいて君の羽になる
自由の翼と熱き歓声に 返す言葉さえ出てこない
君は静かに頭を下げ もう前を向くことはなかった
終わった これでようやく終止符が打てる
君はそっとタオルに顔を伏せ 足を止めたんだ