カップル・バトルロワイヤル
密室の部屋にはランダムな抽選で選ばれた人たちが集う。
男が5人 女が4人。
誰が見ても必ず男が1人あふれてしまう組み合わせ。
「ちくしょう、売れ残ってたまるか!」
他の参加者もカップルになろうと必死になるその前に、
さっさとカップルになってしまえば
売れ残りになることはない。
俺はまだほかの参加者が動き出す前に、
手当たり次第に女の子に声をかけていった。
「君、かわいいね! 付き合わない!」
「俺とカップルになってよ!」
「お願いします! 付き合ってくださぃ!」
最後には土下座までしたものの、
女の子たちの回答は全員同じだった。
「いや、ムリ」
俺が下手に飛び出したせいもあって、
だんだんと男と女が会話の糸口をつかみ始めてしまった。
「ま、まずい……!」
まだお互いを良く知らない状況で告白しても成功率は低い。
まして、いましがたフラれたところで
すぐに別の女に告白するほど心証は悪くなる。
カップルになろうと焦るあまり、
どんどん自分で告白成功率を落としてしまっていた。
それを気付くにはもう遅すぎた。
「付き合ってください」
「はい」
「僕の……彼女になってください」
「よろこんで」
「ねえ、あんた。あたしのものになりなさい」
「だったら、てめぇも俺のもんだ」
密室では、俺以外全員のカップルが成立してしまった。
あぶれたのは俺一人となってしまった。
『ビーーッ。売れ残りが決まりました。
売れ残った人は、大会費用と個人の経費すべてを払ってください』
「うそぉぉぉ!?」
結局、俺は大会の開催に必要な費用すべてと
参加者がこの大会に臨むまでの費用……
たとえば美容室とか服代とか全部負担させられた。
※ ※ ※
「……ということがあったんだ」
飲み会で男は自分が参加した
カップルバトルロイヤルの顛末を話した。
「ははは、相当な金を取られたんだな」
「カップルにはなれなかったし、踏んだり蹴ったりだよ。
それより、お前こそ早く彼女見つけろよ」
「おおおお、俺は彼女作らないだけで、
べっ、別に彼女ができないわけじゃないからなななな」
「声震えてるぞ」
飲み会が終わると、すぐにカップルバトルロイヤルに申し込んだ。
カップル率100%の究極のゲーム。
・参加者は独身であること
・ゲーム参加までの費用を計上すること
・ゲームの参加者は完全なランダムであること
条件は3つ。
ポイントは2つ目の費用は負けた人が払うことになっているシステム。
逆に言えば、勝ちさえすればどれだけ金をかけても問題ない。
「ふふふ……このゲーム、絶対に勝ってみせる」
男にとって「彼女がいない」というのは
「俺はモテないブサイク野郎です」と看板をしょってるも同じ。
かといって、ナンパできるかといえばできない。
手近なところにいる女に手を出せるかと言えばできない。
カップルになるのは、
地球に襲来してきた宇宙人を撃退するよりも大変なのだ。
完全な準備が必要だ。
「ひっひっひ……いらっしゃい」
やって来たのは、怪しげな香り漂うアロマ店。
「……あの」
「ひひっ、わかっとるわかっとる。
お前さんの顔を見れば欲しいものなんてひとつじゃて……」
赤鼻の店主は店の奥に隠していた小瓶をカウンターに持ってくる。
「……これじゃろ」
「これは?」
「強力なアロマ媚薬……惚れ薬じゃ。
この香りをつけているだけで、
どんな人間もお前さんにメロメロとなるはずじゃて」
「そうそう、これだよ! 俺が欲しかったのは!」
ぼったくりにも等しい値段だったが、すぐに購入を決めた。
カップルバトルロイヤルで勝利すればチャラになるのだから。
店主もこの惚れ薬を使ったらしく、
奥さんはモデル顔負けの美人だった。効果は保証付きだ。
店を出ると、スマホに1通のメッセージが入っていた。
『ランダム抽選であなたが選ばれました。
カップルバトルロイヤルに参加してください』
惚れ薬を体にしっかりとしみ込ませて会場へ向かう。
全員が俺に惚れれば、そこから俺の好みの子を選別できる。
まさに、完全無欠の完璧な作戦。
「さあ、ゲーム開始だ!!」
密室にはすでにランダムな抽選で集められた参加者が待っていた。
全員が目をハートにして俺を見つめていた。
自分の大きなミスに気付いてしまった。
参加者は本当に完全なランダムだったことを忘れていた。
――参加者は男だけだった。
作品名:カップル・バトルロワイヤル 作家名:かなりえずき