もうやめて!ストーカーポップアップ!!
画面の右下に小さなウィンドウが開かれた。
『あなたが好きです』
「なにこれ?」
OKやキャンセルボタンはないので、
ウィンドウの「×」ボタンでウィンドウを閉じた。
最初は特に気にしないまま過ごしていた。
次にパソコンを起動したときに、ふたたび現れた。
『どうしてダメなんですか?
僕のどこが悪いんですか? 言ってください。
悪いところがあれば治します』
バツでウィンドウを閉じる。
なんだか不気味。
それからもパソコンを起動するたびに、
ストーカーのようなポップアップが出てくる。
『あなたが好きなものを教えて』
『無視しないでください』
『こんなに愛している人はほかにいません』
「もうやめてぇ!」
どんどん怖くなってウイルスソフトでサーチさせた。
きっと知らず知らずのうちにウイルス感染したに違いない。
検索結果:0件 脅威は確認できませんでした。
と、表示されたその直後に。
『何度断られても、あなたを好きな気持ちは変わりません』
「ひぃっ!」
ストーカーポップアップは表示される。
もう素人の手ではどうにもできないと思ったので、
パソコンそのものを専門の修理業者に頼んだ。
「わ、私のパソコン変なんです!
気持ち悪いポップアップ広告が勝手に出るようになって……」
「ううーーん。なにかウイルスに感染しているようには見えませんね。
いたって正常。変なソフトもありませんし……」
「で、でも! 変なウィンドウが出るんです!」
「まあ、一応セキュリティ設定は変えておきますよ」
こんな時に限ってストーカー広告は出てこない。
これじゃ私が被害妄想してるヒステリック女じゃない。
「はい、設定終わりました。
これでどんな広告も出ませんよ」
と、業者が帰るとすぐにポップアップは表示された。
『君のことが好きなんだ。
毎日君のことを考えている。
ずっとずっと一緒に生きて行こう』
よく聴く耳触りのいい歌詞のような文言でも、
状況と相手によっては不気味以外のなにものでもない。
「そうだ、これを証拠にすれば……」
スマホを取り出して、カメラを起動する。
パソコンに表示されたままの広告をフレームに収めたとき……。
『嬉しいな。また僕と君の出会いの場を作ってくれたんだね』
今度はスマホの画面にストーカー広告が表示された。
「誰!? 誰よぉ! 誰かいるんでしょ!?」
私以外誰もいない部屋に声をかける。
ありもしない盗聴器や発信機を探して部屋を引っ掻き回す。
ネットでストーカー対策を相談したりもした。
でも、効果はなかった。
『君は僕のものだよ。
いつもずっと見守ってあげる。
僕がどんな時も守ってあげるからね』
パソコン、スマホ……そして、今度はテレビにも表示された。
私はついに耐えきれなくなって警察に相談した。
「このままじゃ私、殺されます!
なんとかしてください!」
「実際にはどんな被害を?」
「電子機器に気持ち悪い広告が出るんです!
毎回ですよっ! 毎回っ!
どんな方法でもいいから、なんとかしてっ」
「う、うーん……」
「実害が出ない限り警察は動かないつもりですか!?
こっちはウイルスソフトやっても専門家に見せても
まるで効果がないんですよ!
もうどうしようもないから、ここに来たんです!!」
「え、えーっと……」
警察はストーカーポップアップ広告の出てくるものの共通点に気付き、
瞬時に完璧な対策方法にたどり着いた。
「私がこのストーカーでどれだけストレスがあるかわかりますか!?
毎日毎日気持ち悪い言葉を聞かされて気が狂いそうです!
事件を未然に防ぐのが警察じゃないんですか!?
このままじゃ私はいつか殺されます!」
「あの、完璧な対策が1つだけあります」
「本当!?
私の家を24時ボディーガードしてくれるの!?
それとも……ああ、わかったわ!
逆探知で相手の住所を調べ上げて逮捕してくれるのね!」
「ネットを切断すればいいのでは?」
警察の完璧な回答に女は即答した。
「そんなの無理に決まってるでしょ!!
ネットに繋がれなくなるくらいなら、死んだほうがましよ!!」
作品名:もうやめて!ストーカーポップアップ!! 作家名:かなりえずき