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桜の行進

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敷物の上に寝転んで満開の桜を見上げる。なんて幸せな時でしょう。周りには、やはりお酒を飲んでおしゃべりの興ずる人達、時に子ども達の走り回る音なども聞こえてきても、うるさいとも感じられず程良いBGMとも感じていたのです。

眺めていた桜も、いつしかぼやけて空の色と同化して視界全部が靄につつまれておりました。周りの音も次第に収束されていって、そのうちに微かなどこかで聴いたことのあるメロディーが耳に入ってきました。一人から二人三人と奏者が増えています。そして更に増えて行って高い音低い音と音の幅が増え、音量も大きく聞こえてきました。次第に近づいてくる音楽に、私は身体を起こしてぼうっとしたまま顔を向けました。

ほうっ! 思わず口から出る簡単の声。桜です。桜の木が歌いながらこちらに向かってきています。その木の大きさ、花や枝の形が違うだけ音の質も違っているようで、それがまとまりのある音楽に聞こえるのはリズムがしっかりしているからでしょう。少しウロのある木がお腹を叩くように枝で幹を叩いていたのです。

色々な種類の桜の木達が目の前を通り過ぎています。鈴のような音をたてながら花びらが舞い落ちています。ゆっくりと行列は進んで行きます。中にはひょうきんな桜もいて、私の禿げかけた頭を撫でていきました。桜の一部が笑ったような音を立てました。私は腹が立ちません、どころか頭から幸せな気分が身体全体に押し寄せてくるのを感じました。

一際濃い桃色の桜が目の前を通り過ぎます。その桜がちょっとの間だけ歩みを止めてこちらを見ているような気がしました。私は奇妙に懐かしい思いがしてきて、その桜にかかわる記憶を必死に思いだそうとしました。じれったい思いの中、桜の行列は進んで行きます。もう少しで出てきそうな記憶、でもあの桜はもう通り過ぎました。私は追いかけようとして、身体が動かないのに気づきました。

動かない身体で状況を確認するように、私は隣にいる筈の大好きなあのひとが居ないのに気づきました。あっ、あの桜。慌てて追うように見た後ろ姿。桜の木に前も後ろもある筈が無いのに、私は後ろ姿に見えたのです。少し悲しそうな後ろ姿に。

あ、あのひと。私は記憶の引き出しからそれを取り出しました。

なんとも穏やかで少し霞みがかった空を背景に満開の桜が心を浮き立たせており、隣には大好きなひとがおりましたし、彼女が作ってもってきた弁当も美味しく頂いて、すっかりいい気分になっておりました。

なんて幸せな時でしょう。周りには、お酒を飲んでおしゃべりの興ずる人達、それをうるさいとも感じられず程良いBGMとも感じて私は敷物の上に寝転んで、ぼーっと満開の桜を見上げていたのです。
作品名:桜の行進 作家名:伊達梁川