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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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夢サーフィンで見えたっ!!

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「進路票を提出してないのお前だけだぞ」

先生に職員室に呼び出されると、
自分の未来を示すような真っ白な進路票を突き出された。

「でも先生、まだ俺は人生の半分も生きていません。
 なのに将来の夢とか希望とかわかるわけありませんよ。
 10年前の自分に、現在の姿を想像できたと思えませんし」

「おまっ……」

先生は俺のまさかの屁理屈による切り返しを想像してなかったのか
拳を振り上げつつも「教員職」の誇りでぐっとこらえた。

「好きなことはないのか?」
「別に」

「やりたいことは」
「やりたくないことならあります」

「それはなんだ?」
「勉強」
「お前帰れ」

といったものの、
さすがに自分のクラスだけ進路票未提出と
学年主任ににらまれるわけにもいかないので
先生は生徒にひとつの提案を持ち掛けた。

「それじゃ、夢サーフィンをしてみろ」

「夢サーフィン?
 ネットサーフィンの亜種ですか?」

「近い部分はあるかもな。
 好き嫌いにかかわらず、夢に向かって努力するんだ」

「はぁ……」

「たとえば、今日から"漫画家になる"という夢を持つんだ。
 興味はないだろうが、そのつもりで努力してみろ。
 なにか自分の好きなことが見つかるかもしれない」

その日から生徒は漫画家という夢を持つことにした。
すると、自分の人生に波が起き始めた。

漫画家になるために努力しなくちゃいけない。
そのために、漫画を知らなくては。

それまで平坦で風ひとつ吹かない人生が
漫画家という偽の目標によってだんだんと変化が起きた。

息子の火が付いたような努力に両親もご満悦。
三者面談になると、涙を流しながら感謝した。

「先生、ありがとうございます。
 最近の息子は漫画家になるために必死で頑張っています。
 自分の夢を見つけたみたいで嬉しいです」

「そうでしょうそうでしょう」

先生は生徒の方に向き直る。

「で、お前はどうだ?
 漫画家に興味を持てたか?
 もしくは、本当の自分のやりたいことは見えたか?」

「いえ、全然」

「えっ」
「えっ」

両親と先生は目を点にした。

「漫画家になるために努力しました。
 その努力する過程までは楽しかったんですが
 まるで興味は持てません。この仕事に就きたいとも思えません」

「え、ええーー……」

息子は漫画家になりたいものだとばかり思っていた両親は
まさかのカミングアウトにすっかり言葉をなくした。

「今は"声優になりたい"という夢にしています」

「お、おお。そうか。頑張れよ。
 見つかるといいな、本当の夢」

夢サーフィンという形式なものの、
努力という世間一般で良く思われるものをさせておけば
まあなんかいい感じに落ち着くだろう。

先生はそんなわけで成り行きを見守った。

生徒は声優になるために一生懸命に努力した。
それこそ、周囲の人間には本気で声優になりたいと思えるほど。

「○○君、声優になるためにあんなに努力してる」
「本気で目指すにはあれだけの努力がいるんだね」
「私、頑張ってほしいな。夢、叶うといいね」

「いや、別に本気でなりたいわけじゃないけど」

「「「 えっ 」」」

声優になれる一歩手前までいって、生徒は夢を切り替えた。
今度は"アナウンサー"になるという夢に。

「声優の夢はいいのか?
 なんかこう……自分の将来の夢、見つからなかったのか?」

「夢に向かって努力(サーフィン)するのは楽しいです。
 でも本気であの職業になるつもりはありません。
 努力という過程を長く楽しみたいんです」

「それで次はアナウンサーを?」

「なかなか夢にたどり着けないから、
 長くサーフィンできそうなので」

生徒はアナウンサーになるための努力を始めた。
もちろん本気でアナウンサーになるつもりはない。

やがて、アナウンサーの夢も叶いそうになると
ぴたりと努力を辞めてしまう。

「お前……頼むから、そろそろ将来の夢を落ち着けてくれ。
 じゃないと、周りの人がお前の夢を勘違いして疲れる」

「そうですか。でも、先生。
 俺はついに自分の将来の夢を見つけましたよ」

先生は地獄から蜘蛛の糸が垂らされたような感動に包まれた。

「ほ、本当か!?
 それは本物なんだな!? 本気なんだな!」

「ええ、もちろんです。
 その仕事で一生過ごしていくことを決めました。
 これこそが、俺が一番好きなことなんです」

「ああ……本当に長かった。
 でも私は間違っていなかった……」

生徒にたいして興味のない夢を持たせて努力させる。
それが間違っているかもしれないと思って、
罪悪感に枕を涙で濡らした夜もあった。

けれど、今。
こうして生徒が本当の夢を持ってくれたことに
ただただ嬉しかった。

「それで、君は本当は何になりたいんだ?」

「俺は……プロの夢サーファーになります!」




先生は生徒の肩にそっと手を置いた。

「それはただの 無職 だ……」

「夢だけじゃ食っていけないんですね……」